リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その8

座頭市 あばれ火祭り』(1970)
全部で26作ある座頭市シリーズだが、とりあえず三隅研次の監督した座頭市(『座頭市物語』『血笑旅』『地獄旅』『血煙り街道』『喧嘩太鼓』『あばれ火祭り』)はこれで見終わった。なぜシリーズの中でも三隅監督作なのかというと、それはもちろん、好きだからである。
初めて『座頭市物語』を見たとき、作品は確かに傑作だと思ったが、監督までは気にしていなかった。勝新太郎の作品、としか見ていなかったのだ。しかし、最近になって剣三部作を見て三隅監督が大好きになってしまったので(特に『斬る』は超絶大傑作だった)、とりあえず座頭市を制覇しようと思ったのである。
この『あばれ火祭り』で一番面白いのは銭湯で斬り合うシーン。突然の襲撃に全裸のままで派手に動き回る市(勝新)だが、股間だけは死守されるというユーモア。他にも、仕込み杖を引いて市を誘導する女を刺客が追うというシーンがあるが、そこで市は鞘だけ女の手に残し、刺客を一瞬で斬り(しかも大木ごと)、気づかれないうちに刀を戻すのだ。こういったアクション設計がユニークで、非常に見応えあった。
ラスボスである闇公方を演じた森雅之も印象深い。市と同じくめくらだが、「良いめくら」である市に対して快く思っておらず、大がかりな仕掛け(あばれ火祭り)で市を仕留めようとする。たった一人の為にわざわざ用意したのか?と思ったけど、まぁそれを言うのは無粋だろう。死に際もなかなか悲惨だ。ただ、森雅之とは別にライバルとして仲代達矢も出てくるのだけど、これは盛り込みすぎかとも思った。良いキャラなので彼との対決だけで1本行けたのにね。
さて、最後に三隅研次座頭市で僕が順位をつけるなら・・・と考えてみたが、どれもそれぞれに魅力的で、順位付けなどあまり意味がないことに気づいた。が、強いて言うなら『座頭市物語』と『血煙り街道』が特にお気に入りで、これらは間違いなく傑作だろう。まぁまだシリーズでいうと半分も見ていないので、それを見終わったときに順位は改めて考えてみようと思う。
しかし、勝新座頭市を見ていると香取慎吾の『座頭市 THE LAST』とは一体・・・と思わざるを得ない。北野武の『座頭市』は変則時代劇として楽しいけど、あれはもう、本当にひどかったなと。しかも勝手に「LAST」とか言っちゃっている点も厳しい。綾瀬はるかの『ICHI』は見ていないが、こちらも相当に怖い物件だな・・・。



狼と豚と人間(1964)
最近、深作欣二最初期の作品である『風来坊探偵』『ファンキーハットの快男児』が発売&レンタルされたので、とりあえず深作欣二監督第一作目にして千葉真一初主演の『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』を借りた。62分の間にミニチュア撮影によるセスナ墜落やらダイナマイトやら見せ場が詰まっていて楽しい。そして何より千葉真一がフレッシュね!そんなわけで、色々と見所のある映画だったと思う。
で、本題は深作欣二監督がその3年後に撮った『狼と豚と人間』である。戦後、ゴミ溜めのようなスラム街で育った三兄弟はそれぞれ同じくスラムから抜け出したいという気持ちを持つも、全く違う方法によってそれを成そうとしていた。長男・市郎(三國連太郎)は組織的やくざの幹部となり、次男・二郎(高倉健)は一匹狼の犯罪者となり、そして三男・三郎(北大路欣也)は一人痴呆になった母の世話を押し付けられ、その母が死んだあとは地元でチンピラになっていた。二郎は情婦と海外へ逃げるために、かつての仲間と三郎を使い、市郎が所属する組の資金を強奪する。三郎は二郎に出し抜かれないようにと奪った資金を隠すも、仲間とともに拷問にかけられてしまう・・・というストーリー。
前半は三者三様の人間模様を描くのだが、ここがどうにも若い。北大路欣也率いるチンピラ軍団が『ウエストサイド物語』のように突然指を鳴らして歌いだしたりするしね。
強奪シーンの緊張感は流石の一言。この頃から既に『仁義なき戦い』につながるような部分がある。ただ、本作で注目したいのはその後、うす汚い小屋で、二郎とその仲間が三郎らチンピラ軍団を拷問にかける、心理戦の様相を呈してくるシーンだ。アクションこそないが、カオスなパワーを持ってぐいぐい映画に引き込む。万力による拷問や、情婦の助言により心理的にも圧迫をかける高倉健は、他の作品ではあまり見られないダーティーな面が炸裂していて面白い。僕は高倉健の出演作を沢山見ているわけではないが、この映画で演じた役が一番好きだ。
ネタバレになるが、映画は最後、悲惨と言うほかない結末を迎える。組織やシステムに抵抗し、しかし蹂躙されてしまう個人というものを(ある時期までは)描いてきた深作作品の中でも、これはかなり暗いラストではないだろうか。生きるため従順な豚となって組織で生きてきた市郎に投げつけられる、スラムの人々の怒り。ここに本作の魂がある。これからも彼は豚にとして生きるしかないだろう。しかし、彼の生き方を否定できるだろうか。僕含め、おそらく多くの人が市郎のように行動するのではないかなどとも思った。
この破壊的作品の脚本には深作欣二に加え、佐藤純彌がクレジットされている。佐藤純彌といえばあの破壊的傑作『実録私設銀座警察』の監督であり、なるほど本作のこのテイストも納得なのであった。

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