リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『モンスターズ・ユニバーシティ』を見た。

起死回生のピクサー絶望物語。
ピクサー最新作で、2001年に公開された『モンスターズ・インク』の前日譚。監督はダン・スキャンロン。声のキャストには前作に引き続きビリー・クリスタルにジョングッドマン、そしてスティーブ・ブシェミなど。


小学校の授業でモンスターズ・インクに訪れていたマイク・ワゾウスキ(ビリー・クリスタル/田中裕二)は「怖がらせ屋」の雄姿を目の当たりにし、「怖がらせ屋」になる夢を持つようになる。月日は流れ、モンスターズ・ユニバーシティ(MU)に入学したマイクは、必死に勉強するが、自身の才能を過信しなまけていたサリー(ジョン・グッドマン/石塚英彦)に馬鹿にされる。そして怖がらせ学部の期末試験の日。ちょっとした口論から小競り合っていた二人はうっかり備品を壊してしまい、怖がらせ学部から追放させられる。意気消沈の二人だが、MU恒例行事「怖がらせ大会」の出場し、そこで優勝すればまた学部に復帰させてもらえることに。犬猿の仲のサリーに加え、怖がらせることとは無縁の落ちこぼれクラブ「ウーズマ・カッパ」のモンスターたちとともに大会に挑むマイクだが・・・

学園映画をフォーマットとし、夢と現実、そして挫折というテーマに対ししっかり踏み込んで描いている良作だと思う。簡単に夢や希望を素晴らしい、信じれば必ず夢は叶う!と言ってしまうのではなく、主人公であるマイクはどうしようもない壁にぶつかり、そこで敗退までしてしまうのだ。「本当の自分」というテーマを何度か描いてきたピクサーではあるが(例えば『トイ・ストーリー』や『レミーのおいしいレストラン』)、ここまで突きつけるのは初めてだろう。何のとりえもなく、努力だけが生きる道だったのに、どれだけ努力しても到達できない高みがあると知る絶望。これをわんわん泣いたり、いかにも〜な感じにしないで静かに見せるのが流石だ。
とはいえ、突き放しておいて終りというわけではなく、紆余曲折こそあれ、信じていればいつかはひょんなことから夢は叶うかも、という結末にしているので一応は安心できる。マイクはもともと目指していた方法とは違うところで夢をかなえることができるのだ。それは輝かしい、子供の描く夢とは違うけれど、現実的な希望を感じさせる。そういう点でこの物語は普遍性があると思う。まぁ、意地悪な見方をすればマイクは超バイタリティに溢れまくっているというとんでもない才能を持っていたわけだが。



技術の進歩により表現の幅が広がったモンスターの可愛さにも注目すべきだろう。特に僕は、スクイシー君(多目玉のガキ)の憎めなさと、そしてドン・カールストンおじさん(ハゲたタコ)の中年っぷりに萌えた。なんだろうな、あの、ダメな感じはするけどムッチャいい人、っていう感じ。そういえば、ウーズマ・カッパのメンバーとマイク、サリーが一致団結してトレーニングに励むシーンはテンポが良かったなあ。また前作でライバル的立ち位置にいたランドールについての描写を、フラタニティといった大学内のカーストを通して描くというはうまいと思った。
他に面白かったのは、ある事情から人間世界に行ってしまったマイクとサリーが人間の、しかも大人を驚かせるシーン。ここはもう、モロにホラー演出で楽しい。ちゃんとビビらせにきているのが素晴らしい。ピクサーは作品中にホラー要素をスッと入れるのが上手な気がする。顕著なのは『トイ・ストーリー』シリーズの、特に1,3は。



ただ、どうしてもかつてのピクサー傑作群と比べると見劣りしてしまう作品でもあった。一番の問題はアニメーションとして楽しめる場面が少ないこと。未知の世界が広がっている楽しみ、映像としての快楽というのが本作はあまりない。既に1度味わった世界だという事に加え、わくわくするような冒険もなく、基本は学園の中での出来事なので、見ていて映像的に弾ける瞬間というのが無かったのが惜しい。
それと、これはどうしても仕方のないことではあるが、やはり前作のラストに起こる、ある逆転を知っていると「でもどうせ・・・」と僕には思えた。



ある逆転故、「モンスターズ・インクの続編は無理だろ」というのは制作が決まった時点で多くの人が思ったことだと思う。そして実際、それが原因でちょっと違和感は残るのだが、負け戦はほぼ決定という中で、出来上がった作品は逆転勝ちの良作だったというのは驚いたし、「ナメててすみません」という気持ちになった。最近のピクサーに対しては、「優等生がちょっと悪いことしたら不良以上に叱られる」みたいな風当たりの強さを感じる気がするが、この作品で一応、名誉挽回となったと思う。僕も襟を正し、またピクサーを応援していきたいと思った作品だった。



いやでも、『ファインディング・ドリー』(2015年公開予定)はねぇだろ・・・

ジ・アート・オブ モンスターズ・ユニバーシティ (ジブリ)

ジ・アート・オブ モンスターズ・ユニバーシティ (ジブリ)