リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『アメリカン・ハッスル』を見た。

嘘から出たまことから出た嘘

アメリカで実際に起こった「アブスキャム事件」を題材にした作品。監督は、『ザ・ファイター』や『世界にひとつのプレイブック』など、今最も調子のいい監督と言っても過言ではないデヴィット・O・ラッセル。キャストにはクリスチャン・ベールエイミー・アダムスブラッドリー・クーパージェニファー・ローレンスジェレミー・レナー。第86回アカデミー賞では作品、監督、演技4部門など合計10部門でノミネートを受けている。


幼いころから詐欺を働いてきたアーヴィング(クリスチャン・ベール)は、ある日運命的美女と出会い恋に落ちた。女の名はシドニー(エイミー・アダムス)。二人は出会ってすぐ恋におち。やがて共同で詐欺をはじめた。順調に見えた2人の詐欺生活だが、2つ誤算があった。一つは、FBI捜査官ディマーソ(ブラッドリー・クーパー)に目をつけられていたこと。そしてもう一つは、アーヴィングには妻(ジェニファー・ローレンス)がいるという事であった。ディマーソによって逮捕された二人はFBI協力者となり、ニュージャージー州の市長カーマイン逮捕の手助けをする。シドニーとアーヴィングはFBIに協力しつつ、逃走するための策を練るが・・・

騙し騙され状況が二転三転する映画で、いわゆる「コンゲーム」もの。登場人物はお互いを騙し合い、観客をも騙す。その騙しはキャスティングの時点で既に始まっており、それぞれがイメージを覆すような役を演じる。例えば主演のクリスチャン・ベールはハゲデブ、エイミー・アダムスは横乳のセクシーな愛人といった具合。そんな普段と違う姿を見せる役者たちがスクリーン上で生き生きと動くさまを見ていると、デヴィット・O・ラッセルという監督は独特のキャラクターを創出・演出するのがうまいのだろうなという気がする。実際、前作『世界にひとつのプレイブック』に続きアカデミー賞演技4部門でノミネートを受けるという快挙が、それを証明しているだろう。



本作は、クリスチャン・ベールがその痛々しいハゲを巧妙に隠すところから始まる。これは本編が「騙し」とその「暴露」に関する映画だという事を表しているのだと思う。ただし、その騙しとは単に事件に関することのみではない。この映画は、騙し合いの映画というよりもむしろ、ラブストーリーやドラマとしての側面が強いのだ。それも、『ザ・ファイター』や『世界にひとつのプレイブック』などと同じ、ダメ人間の、である。
騙し騙されていく中で、詐欺師とその愛人は互いに絆を取り戻していく。そしてその過程の中で愛人は敵対するFBIと一瞬のロマンチックを浮かび上がらせ、また詐欺師とその妻は互いの間で消滅しつつある愛に苦悩し、さらにはブロマンスの要素まで入り込んでくる。豪華キャストによる演技アンサンブルを引き出すには十分な舞台と言えるだろう。特に愛人と妻が対峙する場面は見物。ジェニファー・ローレンスが「分かっているわよ」と言い放つシーンは最高だった。
登場人物たちは「変わりたい」「変えたい」「本当は変わるべきだけど変わりたくない」「変わる必要がない」といった、変化への態度を交錯させる。「人は信じたいものを信じる」というセリフのように、本作は人が普段の生活の中で行っている「騙し」の映画だ。他人に自分に嘘をつき、自分自身に無理矢理何かを信じ込ませたり、ときに何かを演じてみせたりもする。そんな人間の普遍的な行動を、歴史的な詐欺事件に絡めて、この映画は描いているのである。



こう書くと、なるほどそれは面白そうな映画じゃないかと思えるし、事実面白いは面白いのだが、僕はあんまり好きになれなかった。その最大の理由は、映画の流れだと思う。人間関係の交錯する中で演技合戦を展開させるのはいいが、どうも芝居を見せることに夢中になりすぎて映画としての流れが停滞しているのではないかという気になった。一言で言うとテンポが悪い。
思うに、詐欺の話を撮るのであれば最も重要なポイントはその手口の鮮やかさであり、それは例えば『スティング』のようなスマートさこそ求められるのではないか。そこにこそ、詐欺の爽快感があるのだと思う。だが、本作のポイントは人間ドラマだ。絡み合う人間関係にこそ見せ場があるが、それはもしかしたら詐欺のスマートさとは相反する部分なのかもしれない。少なくとも、この映画においては僕はそう感じた。ドラマを見せようとすればするほど、映画がもたついているようにも見えてしまった。
もちろんこれはどこに注目するかという点によって印象が違うとは思うので、あくまで個人的には、という話である。あと実は、こんなことを書いておきながら僕は『スティング』もそこまで好きではなかったりするので、単純にそもそも乗れない話なのかもしれない。それに、いくらなんでもジェレミー・レナーがかわいそうだったね・・・。いや、そういう話だから仕方ないのかもしれないし、終盤にあるクリスチャン・ベールとの会話シーンは凄く切なくて好きといえば好きなんだけど。



というわけで、前評判ほどには楽しめない作品だった。だが、役者が弾けているのを見るのは楽しいと思える作品ではあると思うし、70年代っぽい感じなど見所は多い作品だと思う。やっぱり好みじゃなかったというだけかな。この前にあの怒涛の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を見ていなければもっと楽しめていたかもしれない。ちなみに、あるスターがパロディ的に出てくるシーンがあるんだけど、あそこの緊張感が個人的には一番でした。あと気になったのは、アーヴィング幼少期のガラスの下り。あれはチャップリンの『キッド』からの引用だろうか。

American Hustle

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