リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その47~2021年上半期旧作ベスト~

スポーツにはまるで関心がないのでオリンピックなる祭典からは距離を置いて生活しているのだけれどコロナの脅威からは流石にこの片田舎でも逃れることができず、すでに2回目のワクチン接種を終えたけれど依然として不自由な生活は続くわけで、しかもこの2者はほとんど不可分といっていい状況を呈しており、ただでさえ暑く不快な夏がより忌々しい。まつりごとに関する諸々の言葉は令和の万葉集とでも題し残してくのはどうだろう。

さて本題。今年1月から6月に見た旧作で、特によかったものについて挙げる。

 

 

 

男性の好きなスポーツ(1964)

荒唐無稽が過ぎてめっちゃ面白い。とにかく道具とアクションがふんだん。ドレスのくだりは『赤ちゃん教育』より笑えたし、自転車クマもとんでもない。ポーラ・プレンティスも可愛いくて、また衣装もキュート。最後の大雨には『ジュラシック・パーク』を思い出させる雰囲気があって、『ハタリ!』そして『赤ちゃん教育』のほかここからも影響を受けていたのかと。

 

 

『折鶴お千』(1935)

鬼か、と言わざるを得ないお話。冒頭から雨と風の凄い雰囲気で、またすごく光が印象的。山田五十鈴を照らす照明や自刃のため持たれた剃刀の刃、頭上付近まで吊るされた電灯などなど。とにかく画面全体が豊かである。最後病院のシークエンスは長い廊下も印象的だけど、『怪人マブゼ博士』の数年後にこの病室での幻覚描写。さらに壁に頭をもたれかける姿勢も最高。最後まで不穏。

 

 

『クローズ・アップ』(1990)

 あまりにも不意に泣いてしまった。ラスト10分程度の素晴らしさは何だ。よくわからないけれども何か妙に感動的で、例えば割れたフロントガラスも必然というか、画面としてそうでなければならないように思える。外側から見せていた出来事を終盤内側から語り直すシーンはすべての行動のタイミングが完璧。窓越しに覗くのも良い。その辺の通行人が普通に七面鳥を持ち歩いているのには笑った。

 

 

『密航0ライン』(1960)

編集が大胆で、場面転換の素早さ、それにアクションの流れも最小限で効率よく展開させており素直に楽しい。川沿いの逮捕劇は人物のほか乗り物の出入りにカメラもよく動いている。あと顔の捉え方。特に中原早苗なんて大変魅力的。ほんの一瞬の話だけど、宿直室の白い布もいいね。ところで清順の映画はなんらかの枠や窓、もしくは壁にしがみついたりべたっと張り付いたりするシーンが多く、本作のほか今年見たものだと『東京騎士隊』にもみられた。それにしてもアマゾンプライムは続々と鈴木清順作品をアップしていてすごいな。助かる。

 

 

婚前特急(2011)

『まともじゃないのは君も一緒』も面白かったけれど、これに比べると落ちる。画面への、人物の出入りが基本いいな。しかも物語とは全然関係のないところ、例えば画面奥で放置される酔った女性とタクシーなんてのもまた面白くて端や奥まで意識がいく。そして何より吉高由里子の倒れ方。これはもう感動するほど動物。

 

 

『侠女』(1971)

美術と撮影の美しさに全編ほれぼれうっとり見とれる。琴を弾く室内の美しさ、山岳地帯、そしてもちろん木漏れ日差し込む竹林。どこを切り取っても大変すばらしい。また編集が見事。竹林のアクションは浮遊感のある垂直の動くだけではなく、素早いアクションの編集とさなかに差し込まれる顔、視線あってこそのマジック。画面右から手前を通って走り行く、ほんの少しの動きもすごく疾走感があって印象に残る。僧侶たちによるドラッグ映像、勝新かよ。

侠女(字幕版)

侠女(字幕版)

  • シュー・フォン
Amazon

 

 

悪夢探偵2』(2008)

箪笥の上にいた!とかドア髪挟みとか、全体にホラー表現が面白くて大満足。体育館後ろ走り少女も楽しかった。厭世観から希望に至るような話も好物で、そもそも死にたい人ばっかり出てくるというのがいいところ。水をかける、窓から飛び出るアクションが1,2両作ともある。ちなみに1はhitomiを除き声の調子が良くて、これはこれで面白い。「あ、いまタッチしました」 

 

 

『海の征服者』(1942)

80数分に詰め込まれた活劇の楽しさ、ジャンルらしい大掛かりな破壊ももちろんだけど、色彩と光の美しさが見事。薄い陽のオレンジや夜の青さなどが差し込み影をも織りなす室内撮影は絶品だし、空と海の染め上げ方も心地よい。また冒頭の屋敷ではアーチや階段から予想外にホラーを思い出したりもして興奮した。美術もなかなか魅力的。ここでヒロイン、モーリーン・オハラは白と水色のドレスを身にまとい登場し、画面に軽やかさと清涼感を与えている。

 

 

『処女が見た』(1966)

『雪の喪章』でも『婦系図』でもいいけれど、やっぱり三隅って足フェチというか、こだわりがあるんだろな。若山富三郎演じる生臭坊主は若尾文子の足元に刺激されて直接的な行為に及ぶ。そして反対にその坊主は最後、自らの足元への不注意があだとなるわけだ。彫刻刀や筆を持つ手と目つきを捉える画面の鋭さ、黒が強い撮影、それに強姦後の姿が箪笥の光沢に反射しているショットなんかも印象に残る。後半は安田道代引っ張っており、改めて三隈研次監督による女性映画の面白さについて確認できた。

 

 

いつか読書する日(2005)

大変素晴らしい、見事なメロドラマ。明け方、街灯に照らされた薄暗い道を自転車で駆ける冒頭から引き込まれ、その画面の強さから傑作ではないのかと期待させてくれる。全体に動線の設計が気持ちよく、坂の入り組んだ狭い道をたどる牛乳配達をはじめ、逃げたり背を向けたり詰め寄ったりなど、長回しで捉えられる人物の移動にもしっかり演出がなされ画面に広がりがある。全体に地形というか、場を生かしきっているのだ。葬式や水難事故シーンでのロングショットもハッとさせられるし、黒の出方も見事。加えて、メロドラマらしいすれ違い、そして見る見られるの関係が随所に現れる。牛乳を届けること、それを飲まずに捨てること、そしてまた届けること。認知症の件など少々やぼったいところもあるけれど、とてもいい映画だと思う。

 

 

『対決』(1967)

冒頭の出入りからいい横移動。荷車を使った破壊も楽しいし、そもそも基本的照明がしっかりしていて画面がかっこいい。その感覚が最も良い形で結実しているのは高橋英樹が出所した後に恋人と女郎屋で再会するシーンであって、ここは色彩もよく、展開の悲痛さ、横並びの配置とも相まって非常に印象的な場面だ。落ちぶれ具合が酷い兄貴分、中谷一郎も最後にはきっちり泣かせるのがうれしい。ちなみに一応の続編である『血斗』はコミカルな方向に振れ過ぎていてあまり好みではなかった。

 

 

マリー・アントワネットに別れを告げて』(2012)

身体の映画である。混乱する宮殿を多くの人々が歩き回ったりすっ転んだり。豪華な衣装を身にまといつつせわしなくうごめく人々の様子がまず面白い。姿勢もまた注目すべきポイントであろう。ダイアン・クルーガー演じる女王と従者レア・セドゥ、そして愛人ヴィルジニー・ルドワイヤンの3者はどの程度の距離があるか、それはどう変化するか。カットも小気味良く、さらに蝋燭や自然光による照明も美しく見応えある。そして最後はレア・セドゥの目つき、顔つきできっちり締めており、正しく役者へ信頼が置かれている作品だと思う。個人的に最も好きなのは宮殿の外側をはしゃいで回るシーン。

 

 

『ひかりの歌』(2017)

個別記事があるので、https://hige33.hatenablog.com/entry/2021/07/04/005333こちらを参照。杉田協士監督は来年に新作『春原さんのうた』が公開されるようで、公開規模については全く期待できないけれども作品自体はとても楽しみ。

 

 

このほか、湖のランスロ』『都会の女』『その男を逃がすな』『カメラを持った男』『七人の無頼漢』『泳ぐ人』『ゴーストライター』『ルルドの泉で』なんかも良かった。いまさらホークス、溝口、キアロスタミについて書いてもなとは思ったけれど、思いがけない作品とのリンクや想定外の感動があったのでついつい。

さて今年の後半も全くどうなるか読めない情勢で、新作の鑑賞なんかは特に厳しそうだし、またブログの更新に関してはめっきり感想が思い浮かばなくなっているのでなんだかあまりい話はないけれど、とりあえずいろいろ見れたらいいな。