リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『盲獣』(1969)を見たよ。

変態!でもそれがいい!というわけで江戸川乱歩原作の映画『盲獣』を見ました。


ファッションモデルのアキは自分のヌード写真を展示している個展会場で奇妙な男を見つける。その男はアキの裸体をモデルにした石膏の像をなでまわしていたのだ。
後日、仕事で疲れたアキはマッサージ師を呼んだ。するとやってきたのは自分の石膏像をなでまわしていたあの男だった。アキはその男に薬を嗅がされ人里離れた倉庫のようなところに監禁されてしまう。
アキが目を覚ますとそこは暗く大きな部屋だった。監禁した男は盲目であった。しかし、彼は芸術家でもあった。大きな部屋にはマッサージをしていて触れた女性の体の一部、耳、目、鼻、腕、足、胸などの模型が壁一面に飾られていた。そして部屋の中央には大きな女性の裸体の模型も。男は触覚で見る芸術家だったのだ。そしてこの異常な部屋は彼のアトリエだ。
その男はアキの体の美しさ、触覚で感じるものに並々ならぬ魅力を感じたらしい。男はその体をモデルに触覚の芸術を完成させたいのだという。アキは男を気味悪く思い、拒否するが、男の母の厳しい監視の目もあり逃げることはできない。そこで、完成したらここから帰すという約束の元モデルを引き受けるのだが・・・。



登場人物は3人のみ。芸術家の男(船越英二)とアキ(緑魔子)と母(千石規子)である。さらにほとんどアトリエのシーンなのですが決して単調にならないで、奇妙で不気味で変態的な空間を濃密に演出しています。アトリエのセットも異様すぎる空間を見事に表現していました。
演技はというと3人とも見事で船越英二は盲目の純粋な芸術家の変態性をうまく表現していたと思います。純粋なんだけど触覚の世界への、まるで狂っているかのような情熱。そしてアキへの愛情。アキを演じた緑魔子はまあ美しいですよ。妖艶です。彼女はアトリエから逃げ出そうと色々画策するのですが、千石規子演じる母の息子への愛情を利用して嫉妬心を駆り立てるシーンでの魔性っぷり、目線や表情が実に良かった。男と女、二人の変態さが加速していく様なんてもう!
千石規子演じる母の息子への愛情などどれをとっても異常な人ばっかり。3人ともそれをとてもうまく演じているなあと思いました。
その他映画全体が多少大げさと思えるような部分もあるものの、物語の異様さの中にうまく溶け込んでいるので気になりませんでしたね。



終盤に行くにつれてどんどん変態化していく愛情の表現がすさまじく、見終わった後は疲れる(82分しかないのにね)。そしてラストはまさに狂気としか言いようのない変態性愛世界に突入していきます。激しく変態的に触覚で「身体」を求めあう姿。これが愛か。狂気か。愛という狂気がぶつかり合い、加速していく様の異様さに、何とも言い難い背徳感に、その魅力にとりつかれてしまうのです。正常ではなくなった二人が、正常とは言い難い愛をむさぼりあう姿は言葉では表せない愛の歓び、孤独と求められること、SM、歪さ、そして死。そんな退廃的な魅力が詰まっています。





というわけでそういうのは大嫌い!という方以外には広くお勧めします。ただ男女がキャッキャウフフしてるだけの恋愛映画は飽き飽きだ!愛ってのは狂気なんだよ!という方には特にお勧めです。もちろんしっかりと緑魔子さんの裸も拝めます。


盲獣 [DVD]

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