リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ぼくのエリ 200歳の少女』を見た。

スウェーデン製はすごかった・・・段ボールでは再現できまい!

非常に美しく静かな、それでいてしっかりホラーな映画でした。


母子家庭で育った少年オスカーは学校でいじめられるひ弱な男の子。そんなんだから毎日殺人を妄想するちょっとヤバい男の子。そんな子のお隣におっさんと、その娘と思われるエリという少女が引っ越して来る。夜ふらふらとオスカー君が歩いているとエリが話しかけてきた。なんだかよくわからない子だけど、なんとなくこの人は安心できる。何で裸足で歩いてるんだろうとか、何で夜しかいないんだろうとか、なんか最近町で猟奇殺人起こってるなあとか色々気になることがあるけど、この子と仲良くできないかな。というストーリー。



最初にも書いたように美しい映画です。スウェーデン映画ということで、とても寒そうな街並み。静かにふりつもる雪。そして闇。血。真っ白な雪にはなぜか真っ赤な血が似合う。そういった美しく寒々しい風景に異様さが溶け込んだビジュアルがまず良いと思います。




壁越しにモールし信号で会話するなど初恋物語として話は進んでいきますが、どこか最初から不穏な空気を漂わせています。そしてヴァンパイア物としての姿を現すとその設定が随所にどんどん表れていく。例えば太陽に当たると死ぬとか、他人から招かれないと家には入れないとか。原題はぼんやり訳すと「私を受け入れて」というような感じだそうです。

愛というのは私たちが遵守しなければいけない何かを超えて成立してるものなのであり、エリが吸血鬼で人を殺しているとしてもオスカーは彼女を受け入れられるのか?本当に愛していれば善悪の基準を壊してしまえるのだろうか。ということをこの映画では描いています。



といっても実はエリは女の子かどうかわからない。DVDではボカシが入ってるのですが、彼女の股間が一瞬映る、そこにあるのは何かを縫い合わせた跡のようがあり、それは彼女が去勢した跡らしい。(ボカシのせいで単にエロいようなシーンになってる)因みにこのシーンのボカシなしはナントカTUBEでみれると思います。

つまりエリという存在は、単純に恋の相手としての少女というのだけではなくオスカーと孤独を、心を深く共有する存在であるということであり、またオスカーとエリは同時に対称的でもある特殊な設定です。対称とは暴力性と非暴力性ということ。


彼らを最初に結び付けたのは孤独です。いじめられっ子のオスカーと吸血鬼のエリ。邦題には200歳の少女とあるけど彼女は一体何年生きているのか。年齢を聞かれた時12歳くらいというように答えているけど、本当はどれくらい生きたのだろう。何年も人を殺し続けることにより生きながらえてきたのだろうか。


さらに、彼女と一緒に引っ越してきた中年男性。この男はどうやら父親ではないようである。エリのため(アホすぎるくらい)ずさんなやり方で血を集める。彼は一体何なのか。



ネタバレになるけど、ラストシーンから予想されるところによると、この男は将来のオスカーであるように思える。おそらくオスカーの前にもこのような出来事があり、何年も経ち男だけ年をとってしまった。その姿があの男であると想像できる。
そう考えると最初の方のシーンの悲しみは相当なものです。つまりどれだけオスカーがエリを、エリがオスカーを愛したとしても待ち受けているの未来ではあのしょぼくれた夫婦のようなものであり、そして悲惨な最期を迎えると推測できるのです。ここでも恋の問題が浮かび上がってきます。決して幸せになれないとわかっていても、それでも二人は・・・


父親に関してはオスカーの方もあまり言及されない。何故離婚したのだとかよくわからないけど、あるシーンでこう推測できる。ゲイなのだと。友達がやってきた途端、オスカーよりも彼を優先し、彼が目に入らないようである。それを不安げに見つめるオスカー。説明はないけどなんとなく推測できるよう作られている。



最後に、この映画の最も印象的なのは、やはりラストのプールでの大殺戮です。このシーンは静かながら、いやむしろ静かだからこそ残酷さが、そして美しさが際立っている名シーンでした。



というわけで冬にぴったりのスウェーデンホラー。見て損はないと思います。


↓原作

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)