リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『マネーボール』を見た。

夢と革命のフィールド

僕は野球に興味がなく、メジャーリーグはもちろん日本のプロ野球も甲子園すらもほとんど知らない。やった事がないわけではないし面白いとは思うけど見てるのは基本好きじゃない。そんな僕がこの映画を楽しめるかどうかと少し不安でしたが、面白かったですね。そもそも野球の話というわけでもありませんでした。



この映画、まず面白いのはスカウト達が選手を値踏みするシーン。「あの選手は顔が良い」とか「あいつは彼女がブサイクだから自信ない奴だ」などまるで選手自身の実力とは関係ないものである。ほほぉ、スポーツの世界も意外とこういった精神的な部分を考慮するのかと興味深かったですね。血液型とか日本では言われるのかなぁ。
そんな中、それではダメだ、他の金のある球団に勝てないと考えたビリーという男は今までの常識を打ち破るような方法でチームを再編する。こういった経営的な部分にも僕は興味がなかったのですが、本作ではただ淡々とそのやり方を語るだけでなくドラマを進めることを忘れていないので退屈することはない。会話劇ながら退屈しないのは編集の力も大きいと思います。
それにビリーが選手を獲得するため電話交渉するシーンの怒涛のやり取りはどこか興奮がありました。このシーンは屈指の見所だと思います。しかしトレードってあんな感じで成立するのね。



そういった部分とは対称的にエモーショナルとなるビリーの回想シーンが映画を彩っているのも良い。元々ビリーは野球選手であり、将来を期待され有名球団に入るが結果を残せず苦い思いをした経験があったのだ。そして彼はGMとなり野球界で冷遇されていた選手を採用し偉大な記録を打ち立てる。
この映画はいわば負け犬達が常識や凝り固まった伝統に立ち向かう話でもある。過小評価され、負けグセまでついていた奴らがそれぞれの挑戦をしていくことで革命を起こす。そういった部分は僕の好きなところでしたね。



ビリーのキャラクターも本作の魅力の一つだ。すぐキレる困った人だし、冷酷とも言える態度を選手に取ることもあるが、それも彼が味わった苦悩からくる思いやりの一つであるという事が確かな演技により伝わってくる。単なる絶対的な成功者としてではなく、自分のしている事に悩みながらも進んでいく共感を呼ぶキャラクターとしてしっかり描かれているのですね。娘と接するときの親としての表情も作品に良い温かみを与えていると思いました。



やはりこの映画は経営の映画でも野球についての映画でもなく一人の人間の物語なのですね。物語は大きな喝采ではなく個人的な小さい部分に着地していく。20連勝をかけた試合以外に派手に感情を揺さぶることはないかもしれませんが、じっくりと語られてきた物語が静かな感動を呼びます。ビリーが挑戦した変革の偉大さを多少苦さも残しながら温かい視点で語った良い映画だと思います。ちょっと地味だけどね。



ところで、ビリーの相棒となるピーターの部屋にプラトン肖像画が飾ってあったのは何故なんだろうなぁ。それにもうちょっと彼についての描写が欲しかったですね。そこは弱いかもしれません。

マネー・ボール (RHブックス・プラス)

マネー・ボール (RHブックス・プラス)