リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ドラゴン・タトゥーの女』を見た。

背中に刻んだ龍の如く

2009年公開のスウェーデン映画『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』のリメイク。原作もスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによるもの。僕はどちらも見ていませんが監督がデビット・フィンチャーなので見に行かないわけにはいきません。



真冬のスウェーデン、ジャーナリストのミカエルは大財閥の汚職を告発する記事を書くも逆に名誉棄損で訴えられ敗訴。ミカエルも紙も信用がなくなり意気消沈しているところにかつての経済界最大の大物であるヘンリック・ヴァンゲルから奇妙な依頼が届く。それは40年も前に消えた一族の娘に関する真実を探ってほしいというものであった。見返りとして自分の書いた記事が正しいと証明できる証拠を与えると言われたミカエルは調査を開始するが、なかなか核心に迫れない。その様子を見たヘンリックの弁護士はハッカーであり天才的な情報収集能力を持つリスベットという女性を紹介する。この事件に興味を示した彼女と共にミカエルは事件に迫るが・・・というストーリー。



まずオープニングのクレジットが超カッコいいですね!ツェッペリンの「移民の歌」に乗せて『セブン』や『ファイト・クラブ』を思い出す凝りに凝った映像が流れるのですが、これはもう掴みとして完ぺきだと思う。グイッと映画の世界に引き込んできます。
しかもカッコいいだけでなくこのオープニングはリスベットが心に負った傷を表現しているところがまたね。コンピュータやタトゥーと言ったものからSEXや暴力への嫌悪感、そして炎など物語上重要な要素が提示されていくんですね。非常に良いオープニングだと思います。



さて、本作の良さは多々ありますが、なによりもやはりルーニー・マーラ演じるリスベットというキャラクターでしょう。パンクで攻撃的な服装や髪形もさることながら眉毛の脱色がキャラを一層引き立たせていました。そんな彼女がたまに不器用な人間味を見せるというのも魅力的で、体当たりな演技含め非常にうまく演じていたと思います。

リスベットがこのように身を覆っているのはおそらく幼い頃から男に虐待されていたからです。リスベットだけでなく、本作には性的な虐待を受けた女性が多く登場する。映画の重要な要素として男性の権力と言うものがあるのだ。その行為の非道さに本作は真っ向から向き合っているため見ていて非常に不快になるシーンもあるが、その不快感は必要不可欠なものなんですね。何故ならその行為がそういうものなのだから。

ただ、リスベットはこの権力に立ち向かう存在として描かれている。この<権力を破壊しようとする者>という要素は『ファイト・クラブ』や『ソーシャル・ネットワーク』でも描かれていました。フィンチャーらしいところだと思います。そこがカッコいいね!後見人にひと泡吹かせ「私の事覚えときな」と言うシーンにはタイラー・ダーデンアウトローさがあったように思います。



物語に関して言うと、ミステリーを暴くことに主眼を置くのではなく、リスベットのドラマにそれを置いているのが良かったと思います。初めは人間関係の確立の仕方がわからなかったリスベットがミカエルによって心を開き始める。暴力やセックスでしか異性と関われない彼女が、社会的な人間として確立していく話だったんですね。

事件解決の後、リスベットは異常者と呼ばれ人権も奪われた自分にしっかりとした人間性を与えてくれたミカエルに礼をする。それは社会的に消えかかっていたミカエルを再起せるためのものだった。この部分も対応してるようでいいなあと思いました。そしてラストの切ない幕切れ・・・。
ラストの余韻はどことなく『ソーシャル・ネットワーク』を思い出させます。自分に起こった感情をうまくあらわせないというか、これを何と言っていのだろう・・・と言う感じで・・・。何とも言えない孤独が胸を撃ちます。書いてる僕もなんて言っていいのか分からない感じなので伝わらないかもしれませんけどね



というわけで僕個人としては非常に楽しめました。ミステリーとしては特別目新しい事はありませんけど全体にクールで美しい映像が堪能できますし、150分超えの長尺でも物語の盛り上げ、配置のうまさもあり退屈せずに見られました。ラスト近くで「あいつはミカエルとリスベット、どちらの側にいるのか?」というサスペンスも良かったですね。

役者に関してはリスベットが良いとばかり書いていますが、ダニエル・クレイグもハマリ役でしたし、どの配役にも全く文句はありません。何か文句があるとすればドラマ上非常に重要なシーンでモザイクがかかっていた事です。あれだとまず物語の緊張感が台無しになりますよね。あとミカエルとリズベット接触までちょっと長いかなとか、一回見ただけだと人物が分かりづらいかも・・・一族はちょっと混乱しました。そこを抜きにすればほんとにいい映画だと思いますよ。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)