『冷たい熱帯魚』を見た。
愛犬家殺人事件という僕が2歳くらいのころに起こった事件を元にした映画。いやあもう最高でした!
熱帯魚店を営む社本信行(吹越満)と関係の冷え切ったその妻・妙子(神楽坂恵)は、娘(梶原ひかり)が万引きしたという事を聞き、スーパーマーケットへと向かう。そこでスーパーの店長の知人である村田(でんでん)と出会う。彼が仲裁をしたおかげでその場は丸く収まる。それ以降村田家と社本家は親しくなっていくのだが、村田の本当の姿を知った時、その時には何もかもすべて引き返せなくなっていた・・・というストーリー。
※ここからは核心に触れない程度の微妙なネタばれがあります。
どうせイロイロ書いたってここを書かずにはいられないので先ず書いておくと、でんでん演じる村田。この男は映画史に残るレベルの殺人鬼ではないだろか。早口でまくしたて、言葉の迫力、その力強さで迫ってくる。自分の世界に他人をぐっと引きずり込む男だ。
彼の本性は残忍な殺人鬼なわけだが、一見良い人で、例えば飲み屋とかで大声で笑って隣にいるねーちゃんにちょっかい出すようなおっさんである。だが周りから疎まれるタイプではない。親しみやすいおっさんなのだ。
しかし彼がちょっと「うーん、邪魔だなこいつ」なんて風に思ったらあっと言う間に「ボディを透明に」されてしまう。超越した悪ではない。しょうもないこと、金やなんやらでなんてことなく人を殺す。そこがリアルだ。そんな男が隣に住んでる感、これは怖い。そしてそれが「この素晴らしき世界」(本作のキャッチコピー)には生きているのだ。これは実話なのだから。
しかし、どうしようもない殺人鬼でありながら言っていることは真実の様な気がする。劇中いくつも村田の演説があり、もちろん村田が狂っていることは微塵も疑いもないのに、彼の言っていることはこの世のむきだしになった真実であるがために見ているこちら側も乗せられてしまう。彼には彼の確固たる哲学があるようだ。
「お前の考える地球ってのは丸くてツルツルして青いんだろ。俺の考える地球はただの岩だ。ゴツゴツした岩の塊だ!」
そうやって村田とその妻(黒沢あすか)は次々とボディを透明にしていく。その過程もけっこう見せちゃうのでグロいのだが、この映画のすごいところはそういった凄惨さ、残酷さの中にギャグがいくつもぶちこまれてる事。その証拠に、ひどいことがスクリーンには映し出されているのに劇場は爆笑の渦に包まれていた。僕の隣に座っていた人は引きながらも笑っていたようであった。
この映画の中には希望なんてものはない。暴力とエロと絶望、人間の狂気、欲がぶちまけられている映画だが、まあ地球ってかこの世の中なんてそんなもんだ!一皮むけば青い地球の中は真っ黒に染まっているんだ!お前のすぐそばに村田は生きてているぞ!
肉体感を持ったリアルでぐちゃぐちゃな生々しい表現によって、この世の中にあるどうしようもない側面をスクリーンにぶつける。実際に起こった最低の凄惨な事件、ひいてはこの世の中のどうしようもない負の側面を表現するには最狂のコメディにするしかなかった。そしてそうすることにより奇跡のエンターテイメントになっていた。アホみたいに薄っぺらな愛だの希望だのがもてはやされる日本映画の中で、過剰な狂気で迫ってくる本作は必見なのである。
書き足りないので続くかも・・・。
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