リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ヒミズ』を見た。

日不見の青春

古谷実の漫画『ヒミズ』の実写化です。監督は『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』の園子温で、原作アリの企画は初めてだそうな。僕は原作未読ですが、大分変わっているようなので別に読まなくても良いかなと。それで見てみるとやはりというか、物っ凄く園子温の映画という感じでした。



この映画一番の魅力は役者陣の熱演だと思います。主演の染谷将太二階堂ふみはほんとに最高ですが、個人的にはホームレスの夜野を演じた渡辺哲がホントに良いなと。彼が出ているシーンはどれも抜群に面白くて、ずっと誰かと絡んでいるシーンを見ていたいと思うくらいでした。
例えば住田・茶沢が相合傘をしているところに夜野が割って入っていくシーンがありますが、これがホントに最高。まず3人のやり取りが笑えますし、押しだされた茶沢が漫画みたいに転がっていくところや、五七五ゲームからのひっぱたき合いなど3人の演技がバッチリはまってすごく魅力的な場面だったな。
もちろんこの3人以外もとにかく皆すごく演技が上手くて、演技を見ているだけでも楽しい映画だったなと思います。そういうところがこの映画の魅力ですね。



それとすごく良いいなぁと思ったのは住田が父親を殺すシーン。ここをワンカット長回しで取っているのですが、殺すときはカメラが2人から離れて上へスーッと移動するんですね。そして住田が自分は人を殺したのだと、そう気づいてしまうとまたスーッと降りてくる。コレすごく良いですね。カメラが遠くから捉えているときは感情が排されてる。住田が殺人を犯したのは突発的なものであると分かるようになっているのだ。



このように凄く良いなと思う場面も多い『ヒミズ』なのですが、逆にどうかなそれ・・・と思う場面もありまして。園監督らしいエキセントリックさや大仰なセリフは良いんですよ。気になったったのは後半の展開。父親を殺し『気狂いピエロ』よろしく顔面に塗料を塗りたくり街へ繰り出すあたり、つまり<おまけ人生>のあたりから急に退屈に感じてしまいまして。
絶望と狂気の淵に達した住田が殺人を犯そうとするも、皮肉なことにその行動が結果として人助けになってしまうというのは良いと思うけど、そこで出会う人々の描写がすごく乗れない。ストリートミュージシャンもバスの中で起こる事件も<メス豚>もどれも中途半端に感じました。
中途半端と言えば夜野が人を殺した件に関しても不問だし、ホームレスの集団に関しても夜野以外はそんなに意味があると思えない。そして茶沢の親についてもほったらかしになっている。これはダメだろう。



で、色々言われている被災地の映像ですが、これに関しては僕は悪いとは思わない。何度も挿入されるので若干くどいとは思うけど、3.11後という世界に生きる私たちへ、希望を持て!、「頑張れ!」という直接的な言葉は素直に響いた。こんな状況だからこそ、こう言う単純な言葉が力を持って行くように僕は感じました。これは混沌へと走り始めた社会に対し深作欣二が「走れ!」と若者を励ました『バトルロワイアル』のようだなと僕は思いましたね。絶望を生き残れ、と。僕は嫌いになれませんでした。



ただ、ですよ。これは余談ですが、そういうメッセージがありながらこの映画、東北地方での公開館が異常に少なかったんですね。第2弾公開と言うのか、大分後になってようやく公開となりましたが、どうなんだろうねそれって、と言う感じです。地方は仕方ない・・・と言えないでしょこれに関しては。まあ映画そのものとは関係ない話ですけどね・・・。



というわけでダメな部分は確実にある映画です。個人的な事で言えば「別に俺には茶沢みたいに想ってくれる人も夜野みたいに助けてくれる人もいなんですけど」とか思ったりしますよ。ただ、役者陣など良いとことはほんとに最高だし、メッセージ的にも今見るべき映画である事は確実だと思います。合う合わないの差が非常に出る作品だとは思うけどとりあえず見に行ってほしいですね。

ヒミズ 1 (ヤンマガKC)

ヒミズ 1 (ヤンマガKC)