リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『探偵はBARにいる』を見た。

探偵もどうでしょう

以前ブログにも書いたのだが(http://d.hatena.ne.jp/hige33/20101225/1293275151)、僕は「水曜どうでしょう」が大好きだ。大泉洋の出ている他の番組「おにぎりあたためますか」「ハナタレナックス」も好きだし、「サンサンサンデー」などのラジオも北海道にいるころは聞いていた。
北海道ではほぼ毎日大泉洋の出演する番組をやっていた。もちろんCMにだってバンバン出ていた。幼少期は大泉洋ローカルタレントだなんて思いもしなかった。そのくらい北海道では有名だったのだ。
それがいつの間にか全国へ活躍の幅を広げ、数々のドラマや映画に出演する。とはいえ、僕から見て大泉洋出演作品はどれもイマイチというか、「コレ!」と言える物がどうも出ないなぁと思っていた。助演では『ゲゲゲの鬼太郎』があったけどね。ちなみにではあるが、全国で主張率があまりよくないドラマでも、大泉洋が出演していると北海道では視聴率が良くなるという事もあったようだ。



さて、それで今回の『探偵はBARにいる』だが、ついに「コレだ!」と言えるようなクオリティの作品ができた、と僕は思った。しかも大ヒットのオマケつきで、続編も決定。大泉洋の出演した作品の中で今後代表作と言われるであろう映画がここに誕生したのだ。



探偵の[俺]はすすきので探偵家業をしている。根城にしているバーにかかってくる電話から依頼を受け、助手と共に解決に当たる日々だ。ある日いつものようにバーにいると「近藤京子」と名乗る女性から不思議な電話がかかってきた。「2月5日、加藤はどこにいたか」と、弁護に尋ねるだけでいいという依頼だ。俺はそれを引き受け弁護士に会いに行くが・・・というストーリー。



大泉洋はまるで自分自身のような役だ。二枚目になりきれない、どこか子供っぽい無邪気さを持つ飄々とした役。しかし、たまにシリアスでクールな面も見せるという魅力的なキャラクターを好演。今まであまり演技では見せたことがなかったような色気まで醸し出しているのが驚き。大泉洋自身の子供っぽい感じと、年齢的にもキャリア的にも熟した感じがぴったりはまった役だと思う。
彼の相棒を演じた松田龍平は、頭もよけりゃ力も強い。でもどこか力は抜けてる、とぼけたようなキャラクターだが、この演技が絶妙。松田龍平もこれまたぴったりの配役だと思う。この二人の掛け合いが見事にマッチして、コミカルな空気感を作り出していた。彼ら二人によって随所に笑いのポイントがちりばめられているのが心地よい。この二人のキャラクターがしっかり魅力的に描かれていること、そしてコンビとして最高にハマっていること、この2つによって、本作は成功をおさめたと言えると思う。


また脇を固める役者もいちいち良い。ミステリアスに物語に関わってくる美女を小雪が好演(この人の演技で「良い」と思ったのは初めて)。昔ながらのスタイルを貫くヤクザ役の松重豊。『ノーカントリー』のハビエル・バルデム風おかっぱ頭の殺し屋には高島政伸(彼が容赦なく人を殺していく様は凄く良い)。こういった隅のキャラクターが魅力的であるというのも良いところ。



役の魅力だけではなく、物語もグッとくるものがあった。何か特別新しい展開、驚きがあるというわけではないのだが、安定感というか、探偵ものの様式美を守りつつ、丁寧に物語は語られていく。
初めはコミカルなテイストで進んでいくも、事件が進んでいくにつれ話も重くなり凄惨になっていく。すすきのの闇がのしかかり、一層ハードボイルドな雰囲気を見せていく本作。そして丁寧に積み重ねてきた物語を一気に解消するラストの、その哀しく苦い結末には心を動かされた。白い服に真っ赤な血はこれ以上ないくらい映画に合う。スローで見せる映像も美しい。最後に少しの寂しさをも含んでいたのもまた良かった。物語はベタでも十分。あとは丁寧な演出と、魅力的なキャラクターさえいれば映画は面白くなるという事だ。



則天道場から連れ出したガキどうなったの?とか、電話の相手に関するミスリードの部分が弱くない?などいくつか気になる点はあるし、決して完璧とは言えない作品だとは思うが、王道を踏まえ現代にこのような質の高いハードボイルドエンターテイメントを復活させた事は素晴らしいし、確実に見て損はない作品だと思います。映画館で見ることを前提とされた色調、暴力、エロが入っているので、是非劇場で見てほしいですね。

バーにかかってきた電話 (ハヤカワ文庫JA)

バーにかかってきた電話 (ハヤカワ文庫JA)