リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ラン・オールナイト』を見た。

お家に帰ろう

エスター』『フライトゲーム』のジャウム・コレット=セラ監督最新作。主演はリーアム・ニーソンエド・ハリス、コモン、ジョエル・キナマンら。


かつては凄腕の殺し屋として多くの仕事をこなしていたジミー・コンロン(リーアム・ニーソン)は、今では一人息子のマイク(ジョエル・キナマン)と疎遠な状態にあり、唯一彼を気にかけているのはかつてのボス、ショーン・マグワイヤ(エド・ハリス)のみであった。しかしある日、マイクはショーンの息子の殺人現場を目撃してしまったため命を狙われてしまい、息子を守るためジミーはショーンの息子を殺してしまう。息子の死は避けられないものだったとわかってはいるものの、ショーンは復讐のためジミーとマイクを狙うのだった・・・

傑作である。傑作に対しては、その言葉だけを残して後は見ていただければそれでいいように思う。夜の街並みにマンション、そして湖に面した霧の立ちこめる森。銃と殺しによって紡がれたであろう男と男の絆。父と子の長きにわたる断絶。マフィアのボスが息子の死を知るシーンの見せ方。縦構図のアクション。助走を終え、ついに映画が走り出す。追跡の開始。横転するパトカー。縦に動くカメラ。高められた緊張感が文字通り爆発する。レストランの会話。黒の中に浮かび上がる炎。突然現れる、レーザーサイトを銃に装着した殺し屋の造形・動き。「一線を越える」と言うセリフ。同意をもとに一線を越えた男達。そして一線を越えた人を「招く」こと。酒場への突入。回転するウィンチェスターライフル。決着。ひっそりと飾られた写真。全て素晴らしい。



リーアム・ニーソン演じるジミーとエド・ハリス演じるショーンは互いに命を狙うが、それは憎みあっているからでも激情に駆られてでもない。「一線を超えるときは一緒」だと背中を丸め肩を並べて語った男たちは、殺し合うほか方法がないから殺し合うのだ。ジミーは息子を守るため、ショーンは息子を守れなかったために殺し合う。破滅が待っているとわかっていてもやらざるを得ないことなのだ。これは言ってしまえば、男と男の切ないラブストーリーだ。ショーンの背中を見るジミーの顔が、目がそう語っている。
当然この男と男のドラマの根底には、息子への愛がある。ここに割り込んでくるのが何のドラマも持たずただ殺すことだけを目的としたプライスという殺し屋である。この男の登場により殺しの連鎖は絡み合うが、このことが親子のドラマを更に引き出す。
ジミーには息子がいるものの彼の下からはとっくに消え去っており、ジミーにとって心地の良い「家」はどこにもない。住処はボロボロでクリスマスだというのにヒーターは壊れており、サンタの格好をして訪れたショーン邸でも失態を見せ、息子の家には入ることも厭われ写真にもその顔は残っていない。そんな状況の中、ジミーは殺し合いの果てに息子と和解する。それは「線を越えて招く」という演出と、そして写真によって語られる。これはジミーにとって「家」を手に入れる話なのだ。
最後、ジミーは家を手に入れる(家族に「招かれている」)。しかし束の間の和解の後彼は絡み合った殺し合い中で死ぬ。そうすることでジミーは息子を殺し合いから解き放つことができるのであり、新しい「家」を残すのである。このことから僕はジョン・フォードの『捜索者』を実は少し思い出したりもした。
他にも些細な一言からさりげなく人物関係も心地よいのだが、重要なのはこれらがアクションの中で隙がなく語られているということであり、つまり本作は紛れもなくアメリカの娯楽映画なのだが、そうであるという事にこそ本作の素晴らしさがあると思うのである。



唯一、ほぼ唯一惜しいなと思ったのは、ある地点からある地点まで、まるでグーグルマップでカーソルを移動させるようにカメラが動く場面である。あれはジャウム・コレット=セラ監督の前作『フライトゲーム』でカメラが飛行機の窓の外へ出たと思ったらまた中へというシーンと同じような映像であると言えるように思うが、あれだけはこの映画に不釣り合いであったように思う。トリッキーなカメラワークなどなくとも十分魅力的な画面があるのだから、ここは抑えておくべきだったと思う。



傑作であるとの一言だけでいいと書いておきながら結局長くなってしまったが、もうこれ以上はいいだろう。面白い映画に出会ったときはもうただただ「面白かったわ・・・」と呟くことしかできないもので、とりあえずもう1回は映画館で見返し、この面白さについて少し冷静に見られたらなと思う。スペイン出身の監督が放ったアメリカアクション映画の傑作。こういう出会いがあるから映画は面白い。

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