リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『コンテイジョン』を見た。

英雄なき世界の、大衆という恐怖。

スティーブン・ソダーバーグ監督による、豪華キャスト共演のパニックホラー。いくつもの視点から感染というものを描いた、規模は大きいけどシンプルで結構地味な映画です。



序盤にインパクトのある映像を持ってくると観客も作品に引き込まれ易くなるというものですが、やってくれましたね。一人目の患者としてグウィネス・パルトロウが出てくるのですが、まともに顔を見せる前に死んでしまいます。しかも死んだあとは頭皮をペロってめくられ脳みそ御開帳。凄い映像ですが、どこか淡々と処理していました。



そんな最初の感染者の夫をマット・デイモンが好演。妻に死なれ息子にも死なれるという悲劇の中、娘を守るため外部との接触を禁じるなど多少極端な、しかし十分理解できる行動を取る。やはり市民の視点だからか、彼らのエピソードが最も僕は良かったと思う。
印象的だったのは、感染が大分拡大したころ、暴徒と化した市民たちによりスーパーや銀行などが襲われていく中で自分たちも食料品を取ろうとしてしまう姿ですね。誰もが生きることを求めてこのような行動をとる。そして他人に対する恐怖が倍増されていく。大きな恐怖の前に人間たちが分断していくのですね。こんなことありましたね日本でも。
それと、最後に父が娘にあるプレゼントをするシーンも良かったですね。この映画では唯一の温かなシーンだったように思う。あれをせっせと準備したと思うとほんと良い父ちゃんです。仕事見つかるといいね。



一般市民の視点からだけでなく、感染が引き起こす事態を様々な角度から本作は描く。CDC(米国疾病予防管理センター)、WHO、デマを流すジャーナリスト・・・彼らがそれぞれに感染に対して行う行動はどれも本物っぽさがあり恐ろしい。感染源を探る調査官はあっさり死んでしまうし、責任の重い立場にある人間であろうと職務より個人の感情を優先させてしまう。先進国・途上国の間にある不平等や、発展が進んだネットにより起こる新たなパニックなど、それぞれリアリティを持ったエピソードが絡み合い進んでいくのだ。特にジュード・ロウ演じるジャーナリスト野郎が引き起こすパニック、こちらも私たちにとっては「これなんか知ってる」感があるのではないでしょうか。

また、これだけの要素をちゃんと消化しながら2時間を切っているのは見事だと思います。前半の感染があっという間に広がって人間がパタパタ死んでいき、不穏な空気を全体に漂わせていくのはすごく良かった。ただ、個人的にマリオン・コティヤールのエピソードは若干消化不足だと思いました。そういやダークナイトのあの計算が得意な人出てたよね。今回もその計算はうまくいかないけど。



カメラも大変印象的で、ウィルスがどのように広がっていくのかをいやみったらしく映していくのですね。ドアノブ、手すり・・・いったい私たちは一日にどれだけの物に触れるのか、私たちが触れた物にはほかにどんな人間が触れているのか。そして彼らは一体どんな人間なのか・・・。普段風邪が大流行しようと基本僕は何の対策もしない人間なのですが、本作を見た後だとそれを反省してしまいます。



というわけで、本作は非常にリアルに作られたパニック映画であり、群像劇としてもホラーとしても優れている映画だと思います。人と人との関わり合いはいうまでもなく大切であり、避けられないことですが、もしその関わりが知らぬ間に死への第1歩となっていたら?ラストに種明かし的に判明する感染1日目の真実も恐ろしいもんですよ。