リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『パシフィック・リム』を見た。

怪獣大戦争-環太平洋決戦編-
メキシコ出身の映画監督ギレルモ・デル・トロ最新作。この監督の作品では僕は何と言っても『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』が大好きで、信頼できる監督の一人、という印象を持っています。主演は『サン・オブ・アナーキー』というテレビシリーズで知られているらしいチャーリー・ハナム。彼のパートナーには菊地凛子。また、デル・トロ作品ではおなじみロン・パールマンも出演。


2013年8月10日、太平洋の底から巨大な怪獣が出現した。怪獣は3都市をわずか6日間で壊滅させ、その後ようやく軍隊によって倒されるが、世界は甚大な被害を受けた。そこで環太平洋諸国は人類の存続のため協力し合い、環太平洋防衛軍を組織し(PPCD)。怪獣の脅威に立ち向かうため「イェーガー」という巨大ロボットを開発する。しかし、何体も現れる怪獣との長年の戦いにイェーガーも苦戦。アメリカの有するジプシー・デンジャーを操縦するローリー(チャーリー・ハナム)も、戦いのさなかで兄を失い、その苦しみにより戦いの世界から身を引いていた。しかし、PPCDの司令官に呼び出され、日本人女性の森マコ(菊地凛子)とともに再びジプシー・デンジャーに乗り込むことを決意する。

怪獣はカッコいい。なぜなら、強いからだ。圧倒的な巨体と、人知を超えた力で人間社会のすべてを踏み潰し、壊しつくす。その姿には、人間では到底かなわないという絶対的な恐怖がある。それに何と言ったって、怪獣が世界を破壊する様は気持ちいい。普段見ているようなビルやら何やらをドカドカと造作もなくぶち壊していく姿は見ていてスカッとするではないか。その圧倒的強さにはわくわくするではないか。やはり怪獣はかっこいい。



ロボットはカッコいい。なぜなら、勇敢だからだ。人類は、人間の力ではどうでもできないものに対し、知恵で応戦した。その知識と技術の結晶がロボットだ。敵と戦うため、人類を守るため、そのためにロボットは作られる。人が乗り込む場合は特に良い。なぜなら、人間がロボットに乗り込む時には、脅威を前にしてもひるまない勇気こそロボットには必要となるからだ。やはりロボットはかっこいい。



そんなかっこいい怪獣とロボットがただただ激突する映画。それがこの『パシフィック・リム』だ。映画開始すぐ怪獣は世界をぶっ壊し、人間はロボットに乗って反撃に出る。くどくど説明したり、うじうじと悩んだり、社会に問題提起するようなことはしない。とにかく熱く、カッコイイと思わせることに心血の注がれた映画なのだ。ロボットも人間も怪獣も、そのでかい体を駆使しドカドカ殴り合い、投げ飛ばし、町を破壊する。そんな泥臭い攻防には映像の原始的な快楽があり、映画として非常に魅力的だ。
そういった派手な見せ場的場面だけでなく、細かいディテールにまで非常に気を配っていることもよくわかる。例えばロボットが発進するまでの細かい過程、コクピット内の様子やさびれ・汚れ具合。そして波や雨などの表現。こういった詳細部分への配慮により、見ている側を知らず知らずのうちに映画の中へ引き込ませる。視覚面ので行き届いた工夫こそ映画には必要なのであり、これが作品の面白さを何倍にも膨らませているのだ。



そんな本作において、僕が一番「いいな」と思ったのは「でかさ」の表現である。随所にあおりショットを入れ、人間や建築物に対して、怪獣やロボットが如何に巨大であるかという事を表現する。動くたびに震える地面や、攻撃するときの動きなどから「重み」も存分に表現されており、こういった「リアルさ」にグッとくる。
僕は小学生の頃から今もまだ、高層ビルの並ぶ街中とか、森の中に行くたびに、それが破壊される様や怪獣やら恐竜やらが突然現れたらどうするか、という妄想をして楽しんでおりまして(おそらくは幼少期に見たいくつかのゴジラシリーズと、あとスピルバーグのせい)、そんな妄想を映画の中でガッツリ見せてくれるのだから嬉しい。「あーこれこれ!」という感じなのだ。シドニーに現れた怪獣をビルの一画からビデオで撮っている映像もいい。個人的な乃込としては、ひたすらに怪獣に蹂躙され、逃げ惑う市民や殺されていく人々の姿がないのは残念だけど、それはまあ、無い物ねだりかな。
もう一つ最高だったのは香港バトル!これはもう、文句なしに超楽しい時間でした。ピンチに陥ったオーストラリアとロシア、そして中国のイェーガーを助けるため出撃したジプシー・デンジャー!待ち受けるのは2体の怪獣!戦いの時は来た!!って感じでね。これは燃える。予告編で見て衝撃を覚えたタンカーブレード(タンカーを武器にして戦うアレ)すら前座だったという素晴らしさよ。チェーン・ソードに関してはもう、かっこよさで泣くね。
オーストラリア・ロシア・中国が単に脇のキャラとして消費されず、それぞれにカッコいいところを見せている点も良い(ストーリーが薄い、と思わがちな本作ではあるが、どのキャラも、そしてどのイェーガーにも個性があり、彼らの特徴と台詞の端々からストーリーは補完できると思う)。特にストライカー・エウレカに搭乗する父子が直接、照明弾で怪獣と応戦するシーンは『vsビオランテ』の権藤一佐みたいでカッコいい。科学者コンビにも、しっかり光が当たるところもいい。しかし、怪獣と脳を同期させるってすごいな。



魅力のあるキャラクター達の中でも、特に菊地凛子と、そしてやはりロン・パールマンは良かった。菊地凛子演じる森マコは実質主人公だろうというくらいのキャラで、最も応援しやすく、そしてカッコいい役だった。『ノルウェイの森』でも良いなと思ってはいたが、今回は非常に「可愛い」面も見られてビックリ。少女時代を演じた芦田愛菜も好演だった。ロン・パールマンは相変わらずなアクの強い顔面も素晴らしいけど、死んだ怪獣を捌き、売り物にしているという設定が面白いかった。おかしなキャラではあるが、実際怪獣が出現したらこういう人がでてくるんだろうな。場所が場所だからか、『チャイナタウン』のオマージュらしき技まで披露してくれたりもする。



さて、楽しい映画ではあるけれど、言いたいこともある。僕が特に気になったのは、戦闘が見づらいことと怪獣のデザインだ。それが顕著に表れるのは、最終決戦のシーンだろう。おそらく初代『ゴジラ』オマージュだと思うのだが、暗い上に怪獣のデザインも似ており、なにをしているのか良くわからない部分もあった。怪獣一体一体はカッコいいのだから、もうちょっと見分けがつくようバリエーション豊かだとよかった。
設定上少し気になったのは、ジプシーデンジャーが香港へ他イェーガーを助けに行くシーンだ。ジプシーだけは原子力で動いているため、電子機器をやられても動ける、という事だったと思うが、その前のシーンでちゃんと電気によって制御されてんじゃん、と思ったのだが、どうなのだろう。



というわけで、細かい文句はあるが、それよりももっと多く「いいな」と思ったポイントがあり、非常に満足できる作品だった。先に書いたように映像面での工夫、特に「でかさ」に僕は興奮したので、やはり映画館で見てこその作品ではあると思う。
元ネタ云々や影響アレコレと探すのも面白いし、監督のオタク愛が爆発してるタイプの作品なのは間違いない。しかし、これはオタクだけの狭い領域でとどめてしまうのは非常にもったいない作品なのだ。何故なら本作はちゃんと単純に娯楽映画として誰でも楽しめる作品になっているからだ。繰り返し書いているように、これはなによりまず、オタク的な知識関係なしに、一本の映画として面白く見られるような工夫がなされている作品なのである。
この作品を作った今、デル・トロとしては次回作に念願の「狂気の山脈」をやりたいのだろうけど(過去作やオールタイムベストに挙げている作品を見ると、その辺りこそ本当に好きなんだろうなと思う)、ぜひ続編を作ってほしいものである。最後に2つ。エンドクレジットでレイ・ハリーハウゼン本多猪四郎に献辞を捧げているのはよくわかるけど、スぺシャルサンクスとしてデヴィット・クローネンバーグやらジェームズ・キャメロンアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥアルフォンソ・キュアロンらの名前があったのは一体何故だろう。そしてこの記事の中で、何回「カッコいい」って使ったのかな。