『ＡＬＷＡＹＳ三丁目の夕日'６４』を見た。

ＡＬＷＡＹＳという世界
昭和３３年の東京を描き、そのノスタルジーさが受け大ヒットした『ＡＬＷＡＹＳ三丁目の夕日』シリーズの第３弾。前作の『続〜』から５年後、東京オリンピックに沸き立つ昭和３９年が舞台だ。ちなみに２Ｄで見ました。

いきなり長回しで３丁目に登場する面々を続々登場させ、ご近所子供和気あいあいの雰囲気と彼らが生活する空間を見せる。そして模型飛行機がＣＧで再現された昭和の街を飛んで行き、ついに完成した東京タワーにかぶさるようにタイトル・・・「ああ、そうそう。ＡＬＷＡＹＳってこんな感じだったな」と思い出させるオープニングだ。この映画で描かれる世界をすんなり理解させ没入させる良いオープニングだと思う。たぶんここは３Ｄであったらもっと良かったのではないかなと思った。ここ以外は３Ｄで見た方が・・・とは思わなかったけど。

さて、今回の『ＡＬＷＡＹＳ』もこれまでと同じような人情劇ではあるが、とある変化も描かれている。それは「別れ」だ。鈴木オートに勤める六子の結婚と、茶川夫婦に育てられている淳之介の物語が今回の柱。二人が育ての親のもとを離れ自分の人生を歩んでいくことで少し未来に開けた物語になっていたように思う。
今までは昔懐かしの世界から登場人物が進んでいくことはなかった。今回もそういった部分は残っていたものの、未来へ希望を託していこうじゃないかと開けた部分も感じる。登場人物がこれから歩いていくのだなと思える作りになっていて、そこは良いところだと思うのだ。
その未来がどうなるかというと・・・と思えるところもある。例えば鈴木オートなど若干将来どうなるんだここ？という不安が若干あるのだ（それはこちらが勝手に受け取っているだけの可能性もあるけど）。なんとなく日本事態が歩んでいく道も示しているようでどこか面白い。
さらに奇しくも本作は東日本大震災を受けて作られたかのようなメッセージも送っており、今見る価値のある映画になっていたのだ。戦争から復興し、上へ向いていく日本の姿と真っ直ぐなメッセージが伝わる。

ただし、その過程で描かれるドラマは相変わらずご都合主義だし、とにかくいい人しか出てこないので物ッ凄く違和感を感じるところは前作から直っていない。
さらには本作のテーマでもある「幸せとは何か」という事についてとにかくいろいろと言葉で語りすぎであるのだ。他の場面、例えば茶川の父についての真相もとにかく言葉で言いすぎだ。本シリーズに共通、ひいては出来の悪い日本映画に共通の問題だが、映画を通して語りたい事をとにかくセリフで説明してしまう。これはいけない。
演出もいちいちくどい。何もかも分かりやすぅーーーーーーく、且つやりすぎの演出が鼻につく。また音楽もかぶせ過ぎで自分の感情を入れる余地がない。映画に泣け！と指示されているようにしか思えないのだ。映画自体がうるさすぎるので、エピソード自体はベタでも全然乗れない。この辺がもっとうまくなればいい作品になると思うのだけど・・・。

ところで、これは本筋からは少しずれた意見なのだけど、昭和懐古ものとしてこのシリーズどうなんだろう。当時生きていた人はあのＣＧで作られた町並みとかで満足するのだろうか。それに何の脈絡もなくシェーとか言ったりしてさ。懐かしいものを並べただけじゃないか？
であれば昭和の空気感みたいなものが出せてればいいのだけど、ある意味でそれは完全に失敗している。そもそも『ＡＬＷＡＹＳ』の世界観はリアルではない。ＣＧによって理想の形に作られた町並みのように、その中にいる人々も、そこで起こるドラマもすべては昭和のいい面だけを選択し映す映画なのだ。理想の仮想世界、いわばファンタジーである。だから空気感も理想化されたものでしかない。良いところだけは再現できているのかもしれないが・・・という風にどうしても僕は思ってしまう。だからこれを見て「昔は良かった・・・」とか言うのはどうかと思う。これはこれでそういう特殊な世界観として見るべきだろう。まあ平成生まれの若造ですから詳しくは分からないけどさ…。

さて、演出やらこの映画が目指しているものに対してなど色々文句を言ってきたのだけれど、本作はシリーズで一番面白く、僕はそれなりに満足した。茶川の父と子の場面などはストーリー自体は面白いと思うし、六子ちゃんが好きな人の前でどぎまぎしてる様とかところどころ良いなと思う部分は間違いなくある。それが上手く処理できていないのがほんとに惜しい。理想化された世界というのも娯楽としてはちろんありだと思うので、『三丁目の夕日』という人情に満ちた暖かい世界を求めるなら満足できると思いますよ。