リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『クラウド アトラス』を見た。

輪になってく運命 重なってく人生
マトリックス』のウォシャウスキー姉弟と『ラン・ローラ・ラン』のトム・テイクヴァ共同監督作。トム・ハンクスハル・ベリージム・ブロードベントベン・ウィショージム・スタージェスペ・ドゥナヒューゴ・ウィービング、ヒューグラントら、豪華キャストが集結。

1849年 ― 妻の父から奴隷契約を託されていた青年ユーイング(ジム・スタージェス)は、その帰路、船上で奴隷に逃亡の手助けを頼まれる。交流を深めていくうちに、彼らの間にしだいに友情が芽生え始める。

1936年 ― ユーイングの航海日誌を愛読していた音楽家の青年フロビシャー(ベン・ウィショー)は、愛する男性シックスミスと別れ、名作曲家エアズの元で働いていた。働きながら「クラウドアトラス6重奏」を作曲するフロビシャーだが、曲をきいたエアズはそれを自分の曲として発表しようとする。

1973年 ― ジャーナリストを目指すゴシップ記事の記者ルイサ・レイ(ハル・ベリー)は、たまたまエレベーターで出会った初老の男性・シックスミスからある石油会社の秘密を聞かされるが、それにより殺し屋に追われることになる。

2012年 ― 編集者カンベッシュ(ジム・ブロードベント)は担当した作家の本がある事件によりヒットしたことで大儲け。しかし、その作家の弟分が利益をよこせと脅してきた。打つ手のないカンベッシュは兄に助けを求めるが、騙され、恐ろしい看護婦の仕切る老人施設に収容されてしまうのであった。

2144年 ― 純血種が複製種を支配するネオ・ソウル。複製のソンミ451(ペ・ドゥナ)は労働力として酷使されていたが、あるとき反政府勢力の男性に助けられ、初めて外界を目にする・・・

XXXX年 ― 文明の滅んだ後の世界。ソンミを神と祀る部族の一員であるザックリー(トム・ハンクス)は、他部族に襲われた仲間を見殺しにしたため、村では陰口をたたかれていた。ある日、村に<昔の人>の技術を持った他部族の女性がやってくる。彼女は「悪魔の山」と呼ばれる場所へ案内してほしいと頼んでくるが・・・

このような6つの物語が同時に進行していく、非常に実験的な映画です。ある時代の物語がちょっと進んだと思ったら違う時代、そしてまたすぐ次の時代へという感じで進んでいきます。しかもある時代で読まれていた手紙やセリフが違う時代のセリフに直でつながったりと、それぞれの物語が密接につながっているんですね。結構複雑にな構成だと思います。ただ、物語と物語をつなぐ編集が非常に流麗で見事なので、見づらいという事はなく、むしろだんだんそのリズムが心地よく感じる映画でしたね。この映像的試みは一見の価値ありでしょう。



そしてまた実験的なのが、キャストがそれぞれの物語で色んなキャラクターを演じているという点です。特殊メイクを施して性別も人種もバラバラで、もう全然誰が誰だかわからないくらいの人もいました。そんな中トム・ハンクスヒューゴ・ウィービングなんかはわかりやすくメイクされていて、それがまたポイントなっている。この試みも面白い。キャストが判明するエンドクレジットは必見です。
このように同じキャストを使うことで表現しようとしたのは、輪廻転生についてだと思います。人は違う時の中でいろいろな出会いを繰り返し、やがてそれは繋がって運命を導いていく。人は何度生まれ変わっても同じ過ちを繰り返す。破壊、殺戮、エゴ。時代は変わっても人々の本質は変わらない。ただ、そういった愚かな面だけでなく、それに対抗する力として、普遍的な希望や愛についても描かれていたと思います。
また未来の別れが過去の再開へと繋がるという、本作のような表現でなければ描けない変わった繋がり方をするシーンがあるというのもこれまた面白い。こういう他とは違うものを見せてくれる映画というのは、それだけでもう価値があるような気がしますね。
この輪廻のお話からは、やはり「火の鳥」を想像してしまいます。映画1本で人間の歴史を描いてやろうという気概が感じられるところにも近いものを感じさせます。トム・ハンクスなんて完全に猿田彦ですしね。『攻殻機動隊』から『マトリックス』を作った、そして『スピードレーサー』を実写化したこの監督なら影響を受けていても何ら不思議ではないでしょう。
それともう1つ、僕が思い出した漫画があります。この映画の主人公(各物語の)は皆、体に彗星型の痣があるんですね。はい、もうおわかりでしょうが、これ「ジョジョの奇妙な冒険」ですよ。まぁ身体的特徴が何かを証明するなんてのはギリシア悲劇の昔から書かれていることなので「ジョジョの影響だ!」というつもりはありませんが、思い出しはしましたね。



輪廻という事以外にも、これらの物語をつなぐキーワードがあります。それは「革命」です。
2144年の物語はズバリ革命そのものですが、それ以外のすべての話が、権力や支配階級に対抗、もしくはもっとストレートに弱いものが強いのもに立ち向かうという話になっていたと思います。『マトリックス』もそういう話だったので、ウォシャウスキーの特徴と言える部分かもしれませんね(『ラン・ローラ・ラン』は見ていません・・・)。
で、僕はこういう反権力の話が大好物でしてね。そういう要素があるだけで好きになっちゃいますねえ。この映画の主人公たちは皆、自分より強いものに立ち向かっていきます。そして戦った結果、勝利を掴んだ者もいる。そうではない者もいる。しかし、とにかく言えるのは、彼らの行動は全て、後に誰かの運命を変えるものにつながったということなのです。

さて、そんな反権力物語の中で僕が気に入っているのはまず2012年の物語ですね。お話としては最も規模が小さいですが、ユーモアとキュートさがあって楽しい。そして何と言ってもヒューゴ・ウィービング演じるノークス看護婦!こいつが『カッコーの巣の上で』のラチェッド婦長を思わせるキャラクターで良い感じなんですよ。それに、ヒューゴ・ウィービングが女装してるってだけでも最高じゃないですか。ちなみに、このパートでは『ソイレント・グリーン』の話が出てきますが、これはまた違う時代で意味を持つ引用でしたね。しかしこのテーマにしてこれらの作品の匂いというのが、これまたいいじゃないですか。

他にも1973年の音楽家の話の中にある陶器を投げ合うという、非常に美しく「解放」を表現したショットも好きです。また恋愛ものとしてはこれが一番良かったんじゃないかな。あと文明崩壊後の世界も楽しかったですね。なんたって野蛮人が暴れまわる世界ですからね。そりゃ面白いでしょうよ。ペ・ドゥナファンとしてはソウル編も楽しめしたよ。ディストピアものとしては正直ヌルいと思う部分もありましたが、意外と血なまぐさくてね。おっぱいもあったし。



文句を言いたい部分もあります。まず一番大きな問題は、話が少し薄いという点です。3時間近くある映画ですが、6つのストーリーを展開させたという事もあって1つ1つのエピソードはどうも大雑把で、深いところまでは踏み込めていなかったと思います。表面だけなぞっている感じになっているんですよね。映画のテンポのため仕方ないことだと僕は思いますが、ぜひソフト化の際には4時間越えの完全版でも出してほしいものです。
あとどうかなと思ったのは、一部のメイクが酷いことです。特に韓国人メイクはわざとやってんのかな?というくらい、とにかく違和感が半端ない。あとソウル編の闇医者ね。これも酷いもんでした。実験的ではあるんだけど、見ていくうえでちょっとノイズになる酷さだったのが残念。



というわけで非常に実験的な、おそらく後にカルトと呼ばれるようになるような作品だったのではないかと思います。興行的には爆死したようですが(アメリカでは)、見所のある野心作なのは間違いないです。好みももちろん別れるでしょうが、僕はすごい好きですね。もう1回は少なくとも見たいと思っています。

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