リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『名探偵コナン 11人目のストライカー』を見た。

これがコナン映画の普通とは思わないでほしい。

今年もコナンの季節がやってまいりました。去年も書きましたが、コナン映画は第1作からすべて見ているくらいのファンです。なのでそういう観点での感想となります。ちなみにネタバレです。



さて、コナンは原作でもサッカー絡みのエピソードを何度かやっているので、今回はいよいよかという感じですね。(11作目でやっとけよとも思うけど)しかも今回はそんな原作にあったエピソードも登場させていました。特に「迷宮のフーリガン」という話からの引用が多い気がします。たとえば、少年探偵団は東京スピリッツのファンで、灰原はビッグ大阪のファン(というか比護のファン)であるとか。ちらっと本作でも出た「中学生の頃に新一がプロの選手からスカウトされていた」というエピソードもこの話だったような気がする。
また、この話は灰原のスタンスを示した作品でもあります。今回の映画は蘭との絡みが少なく、どっちかというと灰原萌えの映画だったのでこれはいい引用だったのではないでしょうか。



それと面白かったのはちょっとメタ視点が入っていたこと。たとえばコナン映画ではおなじみのオープニング「俺は高校生探偵の工藤新一・・・」ってところ。ここはコナン君の語りなわけですが、今回は探偵団のメンバーがしゃべりの途中に「何ぶつぶつ一人で言ってるの?」と言う。そして最後には灰原が「ほら、いつものあれ、やらないの?」とコナンに言うんですね、そして「真実はいつも一つ!」となる。これたぶん初めてじゃないかな。初めてといえば小五郎の事務所の下にある「ポアロ」で働いている梓も初登場でした。



というようにいいと思うところや面白いかもねと思う部分もあります。でも全体としては結構ひどい出来です。これは別に「コナンが超人過ぎる」とか「無理がありすぎる犯罪方法」とか「犯人の動機が全然理解できない」とかそういうことではありません。もちろん爆弾設置の無理にもほどがある感じなどノイズにはなりますが、それはコナンを見るうえで捨てています。



気になったのは脚本です。とにかく展開やらがご都合主義すぎてもはや人間の行動とかが理解不能なんですよ。例えば冒頭、子供サッカー教室で本浦圭一郎という人物が出てきます。この男は小五郎のファンだといい小五郎に握手を求めるんですが、その際いきなり3か月前に死んだとかいうガキの写真を見せてくるんですよ。意味わからん。なんで初対面の人間に死んだ子供の映像見せるの?その子が小五郎のファンならまだ意味は分かるけどさあ。それで写真見せた後に「楽しそうな雰囲気をぶち壊してすみません」とかいうんですけど、ホントだよ!お前帰れよ!
まあこれはこの人物を後に容疑者として登場させるための行動なんでしょうけどね。だけど理解不能すぎてストーリーの中で浮いてる。不自然にもほどがあるんですよ。


キングカズ登場の意味のなさも異常。一応伏線にはなりますが、それ以外の無意味な場面が多すぎる。カズとコナンのサッカーシーンなんて全くいらないですからね。しかもこれがまた長いんだ。伏線張るならちょっとした会話でもう済ませちまえよよと。あと「そのアリバイの作り方はいくらなんでも無茶じゃね?」という感じもあったし。



あとはラストの盛り上げがねー。スタジアムの爆破というのはなかなか盛り上がるような気がするんですが、どうもよくないんですよ。なぜかというと「この爆弾がもし爆発したら?」という危機感をちゃんと盛り上げてないからなんです。前半、スタジアムにしかけられた爆弾が爆発し、電光掲示板が客席に落ちてくるという場面はありました。しかし、そこでの犠牲者が一人もいない。というか、この作品内では人が一人も死んでいないどころか重傷者すらいない。これじゃあ何が起こっても大変なことにはならないんだと思ってしまいます。
コナン作品ですから【最後は助かる】というのは誰もがわかっています。でもここまでやるとその【安心感】は単に緊張感のなさに代わってしまう。少しは観客を揺さぶらないと。

例えば『ベイカー街の亡霊』では探偵団が一人一人消えていき、蘭すらもいなくなる。そしてコナンに「もうダメだ」と言わせる。あのコナンがそんなことを言うなんて、と揺さぶるんですね。本作と同じく犠牲者が出ない『天空の難破船』では、中盤にコナンが飛行船から放り投げられ、怪盗キッドと協力する羽目になる、という驚きがありましたし、エンディング曲入り前も「おおおっ!」と思わせてくれました。こういう所が一つでもあれば全然よくなりますよ。でも本作は緊張感も新しい展開もないく、ただだらだらとしている。何かに「配慮」した結果誰も傷つかないような話になったのかもしれませんが、これは娯楽ですから。まずは楽しませてくれないと話になりませんよ。



あとは「この話、原作にも似たようなものがあったよね?」という問題もあります。「甲子園の奇跡」という回ですね。爆弾、暗号、犯人の動機、爆弾を使った理由、いろいろ似すぎです。つまりさほどテレビ版よりパワーアップしていないということです。先ほどの話とも通じますが、とにかくハッタリでもいいからとにかく何かこっちを楽しませてくれよと。ド派手なことやってくれよと思います。



というわけでイロイロとひどい映画です。それに僕はまだ【お約束】を認めているので、これでも甘い方だと思です。そこも突っ込み始めたらほんとに長くなるんで。大体ほめたところも【ファンなら面白い】という部分ですからね。初めて見る人なんかはほんとに耐えられないのでは?絵も妙にスッカスカで結構きついですしね。Jリーガーが集う子供サッカー教室は人がいなさすぎで異常にさみしかったりするし、小五郎の事務所は物がなさすぎで変に空間が空いちゃってる。
しかし、僕はこうやって文句をだらだら言いつつも来年また見に行きますよ。ただそれはかつて見たコナンの映画が面白かったからであって、今見ている子供たちはこれをどう見るんだろう。しかも近年のコナン映画ではこれでもまだましな方という。そこが不安ではあります。


最後に、「コナン映画が持っていたポテンシャルはこんなもんじゃなかった」とだけは言っておきたいですね。

名探偵コナン 75 (少年サンデーコミックス)

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