リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』を見た。

芳醇な「男の映画」の香り。
2011年に公開され大ヒットとなった『探偵はBARにいる』(僕の感想はこちら→http://d.hatena.ne.jp/hige33/20110921)の続編です。前作に続き主演は大泉洋松田龍平。ヒロインに尾野真千子、事件のカギを握る政治家に渡部篤郎を迎え、前作以上のスケールを見せる。監督は引き続き東映の社員監督である橋本一。原作は東直己の<ススキノ探偵シリーズ>4作目の「探偵は一人ぼっち」。


ある日、ショーパブで働くオカマ・マサコちゃん(ゴリ)が何者かに殺された。必死に練習していたマジックでコンテストに出場し優勝。テレビで注目を集めはじめていた直後の事であった。犯人はすぐに見つかるだろうと考えていた探偵(大泉洋)だったが、なかなか事件が進展せず、ついに探偵は助手の高田(松田龍平)とともに自身で事件の調査に乗り出す。事件の背後に政治家の橡脇(渡部篤郎)がいるこを探偵は突き止めるが、大物相手という事もあり、さまざまな妨害を受ける。さらに、探偵のもとに人気美人ヴァイオリニストの川島弓子(尾野真千子)が訪ねてきたことで事件は複雑に絡み合い・・・

※具体的なネタバレはしていませんが、なんとなく結末に触れているので注意



このシリーズをもっと見たいぞ!と、そう思わせる良作でしたね。娯楽「映画」としてしっかり楽しませてくれる、良心的な作品だったと思います。
「映画」というのは、テレビでは見ることのできない娯楽を提供する場であると僕は思っており、つまりそれは必然的にバイオレンスやセックス、そして派手なアクションという事になります。で、本シリーズはそれにしっかり答えてくれている。殴り合いのけんかはするし、しっかり血は出るし、カーチェイスもあるし(ボンネットに乗ってるって『デス・プルーフ』みたい)、タバコは吸うし、おっぱいは出る。おっぱいが出るのだよ!そういうものが、テレビどころか映画ですらなかなか見られなくなったこのご時世において、この映画は正しく娯楽映画であると僕は思うのです。楽しい映画をみたなと、単純にそう思わせてくれる、そんな映画なんですよ。ざらっとして暗く汚れた映像にも映画の色気があって良いかなと。



もちろんこの映画が魅力的なのはそれだけではありません。一番の魅力は、何といってもキャラクターです。これについては前回も書いているのであまり繰り返したりしませんが、大泉洋演じる「探偵」の、人間臭くて、でもキメるときはキメる。情けなさと大人の哀愁、そしてどこか色気を漂わせるその姿は、まさに男が惚れる男。こういう男を映画館で僕は見たいのですよ。
相棒の高田は前作に比べちょっと過剰に強くなっいていて(バットで頭殴られてほぼ無傷かい!)ちょっと興ざめ。ただ「俺」とのコンビはやはり魅力的ですね。台詞で何でもかんでも関係を説明するのではなく、そこにいる二人の空気感とかで見せていくのが心地いんですよ。あと仲良すぎないってのがポイント。
他脇役も皆しっかりキャラ立ちしていて面白いのですが、前作に引き続き登場した花岡組の佐山(演じるのは浪岡一喜)。そしてやたら色仕掛けをしてくるウェイトレス・峰子(演じるのは安藤玉恵)。良いですね〜。過剰なんですよねもう。やりすぎなんですよ。ここに僕はなんとなく東映テイストを感じましたね。佐山に至ってはわざわざ泡吹いたりしてね。なくてもいいよそんなの!って。



そんなキャラの立っている本作ですが、ミステリーとしても、シンプルながら十分満足させてくれる出来だとは思います。ゆるいコメディタッチの前半にうまく伏線をばらまき、ミスリードを誘い、最後にガッとまとめる。多少大雑把な部分もあるかとは思うけど、その辺はキャラクターの魅力で補っているように思いました。
また、特に今回面白いと思ったのは面白いなと思ったのは、社会派テイストな部分です。中盤、反原発を謳う集団が登場します。実際北海道は原発を再稼働するかどうか岐路に立たされている状況だと思いますし、ご当地映画としての側面がある以上、その土地が抱えている問題について扱うのは誠実かなとも思います。ストーリー全体に関わってくる「誰かが動き始めれば後についてくるものが現れる」という事とも連動していると思いますしね。
真犯人のあっけなさも僕は凄く良かったと思います。確かに唐突ですが、あまりにどうしようもなくて、救われないその正体、動機。それまではスケールの大きい話をしていただけに、ある意味非常にリアルに感じられ、だからこそ最低で、やりきれなさだけが残る。これがまた「依頼人を守るのが探偵の仕事」というセリフを引き立たせるじゃないですか。
探偵の仕事は事件を解決することじゃないのかって、違うんですね。強い探偵ならそうだと思います。明晰な頭脳を駆使し犯人を見つけ出し、腕っぷしで巨悪に立ち向かう。でも、本作の「探偵」はそれらとは違い、ボロボロになって哀しみを背負う。「探偵」は超人的な活躍などできず、武器と言えば、情に厚く親しみやすいという、人間味あふれる、ある意味で弱い人間です。
前作で「探偵」は復讐を止められなかった。本作では圧倒的な理不尽さの前にただ立ち尽くすことしかできなかった。そんな弱い探偵としての矜持というか、悪あがきが「せめて依頼人を守る」なのであり、その姿こそ感動してしまう。ススキノという町がこの映画にこれほど似合うのは、歓楽街とはいえ寒い北国の、一抹の寂しさがそこにはあるからかもしれない。
ちなみに、「探偵」がただ「なんなんだよ・・・」と言い、立ち尽くすというのは大泉さんのアドリブだそうです。確かにこんな話を聞かされては、そうなるしかないと思います。素晴らしい。



文句と言うほどではありませんが、どうかなと思う部分もあります。まずはキャラクターがちょっと過剰になっていたことです。先ほども高田については書きましたが、「俺」もちょっとコメディ寄りになっていたかと。基本的にそれは悪いことではなく、全体にギャグが利いてて楽しいのですが、スキージャンプのシーンは明らかにやりすぎだと僕は思います。尾野真千子に関してはそれが伏線になっているのでOK。
マスク集団とオカマバーで乱闘するシーン。2人対大勢のアクションとしては楽しめますが、なぜ勝てるかに説得力がないのも気になりました。作戦は確かにありますが、あれ、そんな意味なくない?
お話の部分では、原発問題やある差別について描くのはいいとしても、もうちょっとそれらを劇中でうまく料理できなかったかなかとも思う。特に差別については、真犯人の正体はあれでいいとしても、そういう扱いを受けている人々というのを劇中でもうちょっと描いていれば、真相の唐突感は薄れたのかと思います。
それと非常に細かい話ですが、「中山峠であげいもを買おう」と言い出す下り。これ別にいちいちセリフで言わなくてもいつの間にか買ったってことにしておけばいいのでは?なんか急にご当地紹介みたいになっててなぁ。もしやるならじっくり中山峠を見せるとかできたとも思うし。ちなみにあげいもは僕も大好きです。



と、、あぁ色々言いたいことはあるし、全体に前作の方が僕は好みだったりもしますが、それでも今の大作日本映画が失っている魂を持った、良作であることは間違いなく、劇場で見てこその映画になっていると思います。それに<スケールアップ&前作とは違う事をしよう>いう意思が感じられるもの良いと思いますしね。今回はそれが僕の好みとは違ったというだけの話で、シリーズにするのであればこういう試行錯誤はしていくべきだと思います。
北海道はなにせ広いという事もあるのでまだまだ舞台になりそうなところはありますし、抱えている問題も多いため、次回以降その辺も生かすこともできると思います。また、『網走番外地』みたいに道外に出るというのも、長く続いていく中ではありかもしれません。どのような形にせよ、橋本監督で、大泉洋松田龍平がこの役を演じ続ける限り、何本もシリーズが作られて欲しいと思います。大ヒットもしているみたいだし、やっぱ皆こういうのを求めているんですよね。断固支持!