リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た映画のちょっとした感想。

『J・エドガー』
イーストウッドの新作。FBIの初代長官である、ジョン・エドガー・フーヴァーという人についての映画です。たまにその名を映画などで聞く人ですね。演じるのはレオナルド・ディカプリオ。老年はメイクまでしてましたね。フィリップ・シーモア・ホフマンに似てる。



さて、本作には様々な要素が入り混じっていはいますが、結局はラブストーリーでしたね。フーヴァーが相棒のトルソン君と初めて出会った瞬間の一目ぼれっぷりが面白い。その後の展開もまるで乙女のようでありましたね。年取った姿はもう夫婦。そしてフーヴァーの最後、虚栄心も欲も嘘もすべて‘裸’になった彼に、やさしくシーツをかけるトルソン。ラストに明かされるちょっとしたエピソードなど、とにかく愛の物語でした。全体に地味な映画の中で、彼らの姿はエモーショナルでしたね。まさかよぼよぼのじいさん同士のラブストーリーがこんなに感動的になるとは。



それと、この映画は対称的な構図が多かったかなと思いますね。若かりし頃と老年期、競馬、窓から見える景色、図書館のデータベースとFBIの捜査、現実と虚構、ニクソンとフーヴァなどですね。こういったいくつかの構図が気になりました。
さらにフーヴァーという人は自身が内部に対照的な性質をもっていた。正義と暴走、「男らしくあれ」という抑圧的な母親との関係、それによる同性愛者への嫌悪もそうでしたね。とにかく自己矛盾を抱えている人物であり、そういう意味でアメリカの象徴のような人物だったといえるかもしれません。



全体に派手ではなく、時間軸は複雑、イーストウッド映画でみられる彩度を落とした色や音楽など地味な感じはしますが、フーヴァーというキャラクターを内部に自己矛盾を潜ませる正義の怪物、として描いた本作は興味深いものではあった。また母親との関係性や、人に心を許せない男の愛の物語などいろいろなアプローチから楽しめました。ただ、個人的にはやっぱりイーストウッドすげえなと思いながらも、ちょっと混乱、退屈してしまうところもあったかなという感じでした。

J・エドガー Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

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『ヘルプ 心が繋ぐストーリー』
1960年代、黒人への差別が根強く残るアメリカ南部での黒人メイドの生活と、それを本にしようとした白人女性の戦いを描いた群像劇。こういうと重くて暗そうですが、暖かく楽しい映画という印象を受ける。そしてそれが本作の魅力といえるでしょう。



本作で描かれるのは差別が当然として扱われる世界であり、女性は早く結婚して子供を産むことが望まれる世界。「差別ではなく区別」と言い放ち平然としている状況や、女性の自立は変とされ、家庭に入ることを良しとしながら子育てもせず、メイドを雇う白人たち。そのメイドは貧困であり夫からの暴力にも悩まされている・・・。本作はそんな価値観に疑問を持ち、自らの力で新しい世界を切り開こうとした女性の物語なんですね。

今自分がいる現状について(ネットが発達した今ならいざ知らず)疑問を持ち実際に行動してより良い方向へ変えようというのは非常に難しいことです。その決断も、実行も達成も。この映画はいろいろな勇気をくれる映画でもあります。ラストでは彼女が踏み出した1歩が、その精神がだんだんと広がっていくだろうと感じさせ、これも非常に感動的でした。街から出ていく、というのは象徴的な感じがしましたね。



キャラクターはみんな魅力的で、それだけで映画の楽しさを味あわせてくれる。演じる役者もすごく良かったと思うし、時代感とかコミカルな部分を残したストーリーも全部よくできているとは思う。正しい意味でのウ○コでもあって爆笑したし。でも、個人的にはそんなに心に響きませんでしたね。

なんでかなと思って考えてみたんですが、なんかこの映画が教科書的な優等生さをもっているんですよね。たぶんそこが合わなかったのかと。映画の最初から主人公の中には「差別は絶対ダメ」みたいなことが無条件の決まりごととして決まっていて、「いや、確かにそれはもちろんそうなんだけど・・・」という感じがどうもしてしまった。圧倒的な正しさを提示されて、そこからそれに沿った話をしていくというか・。・・。あと、これは現代からの視点だよなあ、という感じもしました。
実際、当時の差別はもっと熾烈だったと思うし、本作でもほんとにひどい部分は写しはしない。そうすると本作のいい意味での軽さは消えてしまうけれど、個人的な趣味ではそっちも描いてほしかったという感じですかね。



ただ、先ほども書いたように特にキャラクターを見ているだけでも幸せな時間を感じられる映画ではあるし、重い話もあまり重くならずにエンターテイメントとして楽しく仕上げた映画であることに異論はありません。誰が見てもある程度の面白さは保証されている映画だと思います。それって結構すごいことですよね。

ヘルプ (上) 心がつなぐストーリー (集英社文庫)

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