リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ダーク・シャドウ』を見た。

あのころに別れを告げて。
ティム・バートンジョニー・デップ8度目のコラボとなる本作。『バットマン・リターンズ』や『マーズ・アタック』などティム・バートンは好きな監督ですが前作『アリス・イン・ワンダーランド』が残念どころかムカつく出来だったので、ちょっと不安ながらもやはり劇場に行かねばと思い、見に行きましたよ。

18世紀半ば、アメリカの港町で事業を興し、財産を築きあげたコリンズ家。その御曹司であるバーナバス・コリンズ(ジョニー・デップ)は恋人と幸せな日々を送っていたが、彼が出来心で手を出してしまったメイド(エヴァ・グリーン)が実は魔女だったからさあ大変。嫉妬に駆られた彼女はバーナバスの両親と恋人を殺し、バーナバスを不死のヴァンパイアへと変え、棺に閉じ込め土の中へ埋めてしまう。それから200年の時が流れ1972年。建設工事により偶然棺が掘り起こされ、バーナバスは復活。200年の間にコリンズ家はすっかり落ちぶれており、しかも現在町の経済を仕切っているのはかつて自分をヴァンパイアに変えた魔女であった。そんな中コリンズ家にかつてのバーナバスの恋人・ジョゼットに瓜二つな家庭教師のヴィクトリア(ベラ・ヒースコート)がやってくる・・・というストーリー。


ネタバレしてます。




物語や展開が唐突で軸がぐらぐら。でもってバートンらしいデザインだったりゴシック趣味があふれてる変な映画ですねー。しかしこれ僕はもう大好きな映画ですよ。まずね、キャラクターがいいですね。例えばバーナバス。大げさで古風なふるまいがギャップコメディとなり、見ていておかしい。しかも「子孫のために頑張ります」とか言っておきながら敵対する魔女の色仕掛けにコロっとやられたり、で、そのあと軽く反省したり。しかもヴァンパイアなので人の血を吸わなきゃならんのですが、そこはがっつり人殺しをしていくんですね。口も血だらけ。ジョニー・デップはやっぱりこういう役がいい。


そして魔女を演じたエヴァ・グリーンがもう最高でね。バートン映画でも随一のエロテックさを出していたんじゃないだろうか。ティム・バートンの映画において初めてのラブシーン(あれがラブシーンといえるかは微妙だが)もあるし。緑の反吐を思いっきり吐き出したりとワルノリ具合も最高でした。

それに、実質この人が主人公なんですよこの映画は。

この人はバーナバスに(若干語弊があるとはいえ)たぶらかされ、あっさり捨てられる。それで嫉妬の怒りに燃えるんですね。彼女はとにかくバーナバスの愛を欲するのだけど、バーナバスには「それはただ所有欲なんだ」「お前は愛しているのではない、お前は愛することなどできない」というふうに言われてしまいます。激しく愛を欲した彼女の思いは最後まで届かない。僕は誰かに好かれたいという思いを抱えてるキャラクターが好きで、彼女が心臓を差し出す場面は特に切なかった。



ところで、なぜ私を愛してくれないのかと迫る彼女は、過去のバートン作品に出てきた多くのキャラクターを思わせます。愛されないことのコンプレックスというのは、ティム・バートンの映画では重要な要素でしょう。
この映画が魔女の恋に比重を置いているのは明らかです。彼女の描き方に対し、メインヒロインであるはずのヴィクトリアとの恋愛はほとんど描かれません。両思いになる展開などは、明らかに急に思えます。それは魔女の方にこそ、気持ちを入れて描いたからだと思います。このキャラクターに対する思い入れこそ、ティム・バートン的であると、僕は思いました。
また、本作はキャラクター性以外の部分でも、自身の過去作を意識させるような展開を多く入れてあります。『ビートルジュース』や『シザーハンズ』『マーズ・アタック』『スリーピー・ホロウ』など、随所にそれっぽさがうかがえます。これらのことからも、本作はティム・バートンにとって自身の集大成的なのではないかと、僕は思いました。当然、怪奇趣味についてもです。



ただ、本作の終着点はかつてとは違うところにあります。それは、本作がバートンにとって過去と決別するための映画だったからではないでしょうか。自身が今まで描いてきたものを集結させ、そして本作は最後でそこを切り離しているのです。
例えば『アリス・イン・ワンダーランド』では、赤の女王の扱いなど、過去の自分との決別が急すぎた。だから本作ではじっくりと過去を見つめなおすことで、本格的に区切りをつけようとしようとしたのだと僕は思いました。初めてラブシーンを入れたのもそう考えるとなるほどと思えます。



とはいえ、そんなこと考えなくても全然楽しい映画ですよ。そもそもかなり爆笑できる映画でして。たとえばバーナバスは家系のため一家を再建させようとします。映画冒頭にも「家族こそ真の財産」などという台詞があるのですが、最終的に家族がバラバラになって終わるとは!登場人物全員が欲まみれで人格破綻者で、そいつらが好き勝手やった結果一家は崩壊。その過程が酷いし、しかも家まで燃え落ちるって、悪い冗談としか思えないストーリーも最高です。

それと女優陣が輝いてる映画でもありして、エヴァ・グリーンを除いては特にクロエ・グレース・モレッツがもう!ホント登場シーンから魅力があふれてるてですね、椅子に座ったまま振り向くあのシーン!太もも!こりゃあもうやられてしまうわけですな。



と、かなり褒めていますがラストはちょっとおかしいなと思いまして。普通に考えたら納得できませんよ。しかしですね、僕はこの映画に好意を持っていますから、以下のように超解釈して納得しました。
【二人とも吸血鬼になってめでたしというのは、バーナバスの妄想だった。実は魔女が死んだ際に呪いは解けており、崖から落ちて2人とも死んだ。最後ヴィクトリアがジョゼットと名乗ったのは、結局バーナバスはヴィクトリアではなくジョゼットを愛していたから、妄想の中で結ばれた】
こう思えばバーナバスの愛も大概だというブラックな感じが増していいなと。まあ僕の完全なこじつけ妄想ですけどね。しかもこれだとさっきの、ティムバートンの決別、という話がよくわからなくなるんですが、まあこの映画自体ゴチャゴチャなんでいいでしょ?



というわけで、普通に見たら変な映画ではあるしバートンファンでも結構評価が別れる映画ではあると思いま。しかし僕はホントに好きな映画でしたし、バートン上において重要な作品かなあと思います。これからはどんな映画を撮っていくのかも非常に興味深いところです。