リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』を見た。

ラストダンスは踊れない

説明不要の人気シリーズである、踊る大捜査線4度目の映画化にして、ついにファイナル。今までに出演したキャラクターも勢揃いで、相変わらずの大ヒットしているようです。



結論から言うと、駄作だと思う。やっぱり脚本はひどい部分が多いし、演出も好きになれない。無理矢理登場させた様なキャラクター、雑なディティール、ありえなさすぎる行動、しらけさせるセリフ・・・。
ただこれらは『踊る大捜査線』を見る上では、そうなるだろうと予想できることだ。だからまぁ1万歩譲ってそこはいいとしよう。今回最大の問題は「これで終わりでいいの?」と思わざるをえないところだ。これならまだ『2』の方が(映画としての出来は置いといて)ファイナルとしてはふさわしい感じがした。



ファイナルにふさわしくない理由としては、何より盛り上がりに欠けるということが挙げられると思う。前作までは一応、超無理矢理、酷いやり方ではあるけどラストに向けて盛り上がっていく気はした。でも今回はそう感じられなかったのだ。
何故かというと、今回の事件はすべて警察という組織内部のお話なんですね。そのことによりシリーズ全体のテーマ的な部分に落とし前をつけることにはなるんだけど、話としては規模が小さくなったと感じてしまう。登場人物もあまり大きく動かない。テーマ的にはいいのかもしれないけど、やっぱりファイナルというのであれば、もっと派手なことがあった方がいいのでは?と思うのだ。それにね、全体に話が暗いよ。動きもないし暗いじゃあ、やっぱりフィナーレには向かない話だと思う。あと俺が馬鹿なのか脚本が支離滅裂なのか、まぁおそらくは後者なのだけど、とにかく話がよくわからん。


ただまともになってる部分もあった。それは不快感が消えたというところ。前作までは社会的弱者への異様な敵意というか恐怖というか無知だとか、ネットを使っている若者への、あまりに勝手な嫌悪感があったが、今回はなかったように思う。あと無意味なスローモーションの多様とかも無くなっていたかな。だから今回は一番心の平穏を保って見ていられるのは確かだ。でもつまらないものはつまらない。というわけで以下ストーリー順に思ったことなどをイロイロ書いていこうと思う。



ネタバレ



オープニング、いかにも下町な商店街で青島とすみれが、夫婦でから揚げ屋を営んでいる。「誰かの夢なのかな?」と思っているとどうやらそうではなく、ある事件の犯人の追って張り込み中だったようだ。見事犯人を捕まえた青島達はその店を片づけ、残ったから揚げをただで配る。このシーンは本作がファイナルである、と言うことの暗示(店じまい)なのだけど、犯人逮捕のため店を出して張り込みって、流石にそれはありえなくない?
あとここで気になったのは犯人の服装。アニメキャラらしきものが印刷されたパーカーを着ているんだけど、その出来がまあお粗末。アニメ好きの犯罪とでもしたかったのかもしれないけど、この辺は相変わらず適当だなあという感じ。


タイトルバックはシリーズの映像を組み合わせたものになっていてなかなか良い。最初のデザインで登場するタイトルとかね。いかにもファイナルというか、総決算と言う感じがする。


タイトルが終わると前作から登場の鳥飼こと小栗旬が現れます。鳥飼は警察のお偉いさんに書類を提出しますが、無視されてしまう。そこには「警察機構維新」の文字が。そしてお偉いさんのいる部屋を出た鳥飼は、どこからか銃を持ち出すのでした。この時点でとにかくコイツは怪しいと決定。


場所は変わって湾岸署。湾岸署の管轄内で環境エネルギーサミットが開催されるとのことで、人手が足りない様子。真下所長の命令で青島もいろんな部署に駆り出される。
『踊る〜』といえば映画ネタの多いシリーズだけど、今回はここで『ブレードランナー』ネタがある。「ふたつで十分ですよ」というやつだ。意味はない。
あと捜査本部に出すお茶と間違えビールを大量に入荷してしまい、バレないように隠すというギャグがあるんだけど、実はこれがテーマに関係する重要な問題をはらんでいる。詳しくは後ほど。


そんな日常を送っていると、エネルギーサミット会場で突如誘拐事件が発生との通報が。青島らは現場に急行するんだけど、その現場の様子が平和すぎ!さっきまで拳銃を持った男が目立つように行動していたというのに、普通に通行人がその辺わらわらと歩いてるんですよ。違和感あるなあ。


まあなんやかんやのうちに死体が発見されるんだね。その死体はさっきの誘拐の被害者で、拳銃で撃たれて死んだってさ。で、その拳銃は警察が押収したものだから隠蔽しようとするんだって。まぁそれはいいんだけど、この事件の実行犯はここですぐわかるんだよね。でも共犯を見つけるためとか言って、捕まえたり拘束はしないんですよ。おかし過ぎでしょ。バカなの?


警察上層部がそんなことを話し合っている間、すみれさんは密かに警察を辞職する意思を固めていた。過去に銃弾を受けた場所が、しきりに痛むというのだ。
ちなみに、このとき内田有紀演じる篠原にすみれが借りていたブルーレイを返すシーンがあるが、ここで返すのは『わが青春に悔いなし』と『ダーティハリー』。お約束の映画小ネタである。ちなみに、一応『ダーティハリー2』は物語上関わりがあったりする。


警察は事件隠蔽のためにスケープゴートとなる男を用意することを決定。拳銃のことなど、事件については何も知らされていない所轄にその役割となる男の逮捕が命じられた。さっそく犯人捜索のため環境エネルギーサミット会場へ向かう青島なんだけど、とにかくこのサミット会場が酷い!もうとにかくクソつまんなそうなのね。まあ環境サミットなんてそんなもんなのかもしれないけど、超つまんなそうな出し物に、やる気のねえ適当なアイドル風の奴らのライブとか、時代錯誤も甚だしいコスプレをした女がいたりとかさ(テレビシリーズに登場してるらしいけど、そんなの関係ねえ)。こんなサミット誰も行きたくねえよ!


あとこの辺でちょくちょくスリーアミーゴスも出てきますが、全く不要です。面白くもないし。


上が用意したスケープゴートを捕まえた青島だが、取り調べはさせてもらない。上層部は所轄に知らせないで暗躍しているようだ。


第2の殺人が発生。どうやら殺された男は6年前に起こった少女誘拐事件の犯人として捕まるものの、無罪放免となり最近自由の身となった人物らしい。さらに続けて第3の事件も発生。なんと真下の息子が誘拐されてしまうのだ。だからとっとと犯人拘束しておけばよかったんだよ・・・。


この時、鳥飼らの暗躍により青島と室井さんが辞職させられそうになります。なんと青島は無実の被害者に取り調べで暴行を加えた男として、そして室井はそれを指示した人間とされてしまうのでした。もちろん上層部の保身のための策略です。
ここで上層部はマスコミにその情報を流しますが、警察の出した発表が速報のごとく瞬時にテレビで流れるのは相変わらずですね。そんな速いこたぁねえだろ。


一方、すみれはというとこっそり警察を辞職。深夜バスで田舎の大分へ帰ろうとしています。しかしそんな矢先、バスの中にあるテレビで青島と室井の危機を知る。涙を流すすみれだが、バスは大分へ向け走り出すのであった。


さて、犯人の正体とその目的ですが、犯人は6年前の少女誘拐事件に関わっていた捜査官であることが判明。彼らはその時に少女を守れなかった無念から犯人を殺害。そして当時上司として捜査方針の変更を決めた真下に対する恨みから息子の誘拐に及んだというのです。しかし、無罪になったというのに大した根拠もなく、思い込みだけで犯人を撃ち殺す警察ってどうなの?


犯人がわかるとなんやかんやで室井さんが指示を出し始めて、みんなそれに従います。なんでって、そういうもんなんです。そして青島は自転車で走り出す。でも真下の子供を連れた犯人がどこにいるのかわからない。なので青島は今は亡き和久さんを見習い、犯人の気持ちになって行動してみる。


えーこの犯人の気持ちになって捜査するというのは『MAD探偵』みたいでいいと思うけど、結局青島は行き当たりばったりで行動しているだけだからね!別に犯人の気持ちとか関係ないよ!だいたいは室井さんたちの捜査おかげだ!あと、途中青島が環境サミット会場に行くんだけど、そこの警備がザルすぎ!なめてんのか!


調査の結果、港にある倉庫に犯人は潜んでいるらしいが、数が多くどこにいるのかわからない青島。6年前の事件になぞらえているというこの誘拐。あと数分で少女が殺された時間になってしまう。早く見つけないと・・・そしてその時、青島はひらめいた。犯人と真下の息子がいる場所は・・・バナナだ。



えっ。



青島は子供がバナナ倉庫にいるという。理由は「子供はバナナが好きだから」




それに応える室井さん。



「総員に告ぐ・・・・・バナナだ。」



なんじゃそりゃあああああ!!!




こっちがいくら「なんで????」と思っても映画は強引に進んでいく!バナナ倉庫にたどり着く青島!そこにはさっきまで子供のいた形跡が!やっぱり子供はバナナだ!これは決して誘拐犯を演じる香取慎吾がDOLEのイメージキャラクターだからとかそういうことではないぞ!


いや一応理屈は通ってるちゃあ通ってるんですよ。6年前の事件で犯人が潜伏していたのは、東京タワーの見えるおもちゃ屋。要は子供が喜ぶ場所にいたのである。で、今回犯人が行き着いた場所は、東京タワーの見える倉庫。その中で子供が喜ぶのはバナナであると。最後のあたりでいきなり飛躍しましたが、それこそ躍るクオリティ。今回もキマったぜ!


暗いバナナ倉庫の中を探し回る青島。応援に和久さんの甥も(全く役に立たないからいる意味ないけど)駆けつけます。しかし、複雑で入り組んだ倉庫の中、いったいどこに子供と犯人がいるのか、なかなか見つからない。


そうこうしているうちに真下の息子は一瞬の隙をついて犯人から逃げ出します。そしてランドセルにつけていた緊急アラームを鳴らすんですね。なるほど青島達はその音を頼りに子供を見つけるのかな?と思うのですが、ここで踊る大捜査線のテーマがドドーンと大音量で鳴りだすんですね。
うーん。ここはさぁ、青島と犯人、どっちが子供を先に見つけるか・・・みたいな感じで演出した方がよくない?音の大小でどっちがより子供に近いか・・・っていうふうに緊張感煽ればいいじゃん。何音被せてんだよ。



なんやかんやで青島は子供を保護。犯人と対峙します。「これは正義だ」という犯人に対し青島は「違うよ」といいます。「あー、ここからダメ邦画黄金パターンの《感動的な音楽+一大事なのに長々演説》が始まるのかぁ」なーんて思ってたらいきなり犯人は銃をバンっ!と撃つんですね。これはいい。やっぱ本気で殺る気のある人は黙ってやりますよ。空気とか読まないもん。


じりじりと詰め寄る犯人、青島と子供絶体絶命の危機が・・・。


その瞬間!突然倉庫にバスが突っ込んでくる!ダークナイト』のオープニングみたいな感じでドーンと!子供も青島も危機一髪で助かった!そしてそのバスに乗っていたのは・・・すみれさんだーっ!




ち ょ っ と 待 て



そのバスあれだよな?さっきすみれさんが乗ってた大分行きの長距離バスだよな?ってことはあれか?お前はこのバス乗っ取って他の乗客とか運転手を降ろして乗ってきたんだよな?それはハイジャックっていうんじゃないか?それにお前、いきなり倉庫に突っ込んでくるって、子供とか青島の危険とか考えてねえのか?え?お前こそ捕まれよ!


さて、事件は解決しましたが、ここであることが判明します。それはこの事件を裏で操っていたのは鳥飼であるということです。まあ最初に書いたように登場から怪しいので判明もくそもないけど。


鳥飼は自らの正義を信じ、悪人殺し等に加わった。正義ではなく、自らの立場、責任の回避しか考えていない奴らに裁きを加えるために。もちろんこれは言うまでもなく、3.11以降国民が抱く感情がここには込められている。信念ではなく個人の保身、利益、そういったもののために動く男たちに、機能していないシステム、隠蔽体質・・・。そういったものへの怒りが鳥飼のキャラクターには込められている(と思う多分。え?深読み?)。


本作はちょっと面白い場面があって、それは隠蔽をするのが何も上層部だけではないというところなんですよね。初めの方に触れたビールの話を思い出してほしい。これは手違いで頼んでしまったものですが、青島達も署内全てでこれを隠そうとする。大なり小なり隠蔽はどこにでもあるのだ。


しかしここで疑問なのは、青島を信念がある男としてこの映画で描き切ろうとしていることだ。組織の中だからこそ、個人の信念が大事だとこの映画は言う。でもそれは観客には納得できない。なぜなら青島もまた結局保身のためにビールを隠してしまっている。しかもそのビールの件は結局うやむやのままなのだ。
この映画で信念を持って正義のために行動を起こしたのは鳥飼だ。間違った危険な方法ではあるが、彼は自分の正義を貫き、その行為は成功したといえる。そしてなんと最後に隠蔽体質の警察機関を内部から告発し、シリーズを通して暗躍してきた上層部をついに失墜させる。室井は警察改革のための委員会に委員長として就任。ついに青島との約束である「所轄が動きやすい組織改革」への第1歩を踏み出すのだ。彼らは「正しいこと」ができるようになりつつある、というところでこの映画の幕は閉じる。しかし、その道を開いた鳥飼に青島が「正義は心にしまっておくくらいがいい」とか言ってやがるのね。なんかこれはちょっと納得できません。



ラスト、室井は青島の部下にこういう。「彼の背中を見て育て」と。このシーンの安っぽい演出にはあきれるし、サブタイトルの「新たなる希望」の意味も結局微妙な感じで終わってしまう。青島とすみれさんの関係も特に進展がないまま。内容の小ささに加え、これじゃあ個人的には何とももやもやが残るし、「これでファイナルかぁ」とどうしても思ってしまうのだ。




はい、と言うわけで長々と書いてきました。多分これでもまだまだ突っ込み切れていないおかしなところはあるんじゃないかと思います。とにかく最初に書いたように駄作だと思います。でもネットで感想とか見ると結構褒めているファンの方も多いみたいなので、これはこれでありなのかもしれません。でも僕はやっぱり、本気で燃える完結編にしてほしかったなあと、思わずにはいられないのです。

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