リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その3

『赤い天使』(1966)
増村保造監督、若尾文子コンビの戦争映画。ただ戦争映画とはいっても、これは一風変わっている。何せ本作は従軍看護婦を描いた映画で、ラブストーリーで、エログロ絵巻でもあるのだ。
激戦地にある病院へ赴任した西さくら(若尾文子)。そこで彼女が見たのは、のこぎりで切断されて放り投げられた手足。積み重なる死体。兵士の悲鳴。コレラにかかった慰安婦の吐瀉音・・・。こういった悲惨な状況を、本作は非常にいやーな感じで描いているんですね。下手なスプラッターよりよっぽどグロく、気分が悪くなります。病院に運び込まれた大量の兵士を、医者が「切断」「死亡」などと、市場の魚の鮮度を確認するかのごとく扱うシーンも印象的。
そして本作では死と結び付いているものとして、性が描かれている。冒頭からさくらはレイプされ、そのあとも両手を失った兵士には手コキをしてあげたり、足で秘部をさわらせてあげたりします。これだけだととてもゲスな話にも聞こえますが、この兵士のエピソード自体はとても悲惨で、哀しいものです。本作では生と死が性によって結びついているのです。
さまざまなことが起こるうちに、さくらは軍医と恋に落ちる。敵軍に囲まれ、明日には死んでいるかもしれないという状況の中、愛し合うシーンは美しい。エログロの中にメロドラマが入り込む、戦争映画の傑作でした。

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1/880000の孤独(1978)
石井聰亙監督の短編映画。早稲田大学合格をめざし3浪もしている男の孤独と鬱屈、そして爆発を40分程度で上手く描いている。
内部に狂気を宿した孤独、そしてその孤独が今にも爆発しそう、というのは『タクシードライバー』をどうしても思わせる。人生はうまくいかない、友達もいない、女もいない。女性は遠くから眺めるだけのものだ。幸福そうな人たちは自分と違う世界にいる。自分だけが孤独な世界に立ち止っている。誰も待ってはくれない。そんな日常の中で溜まっていく鬱憤を本作じっくり見せるので、非常につらい。まるで自分自身を見ているようになるのでね。
ラヴィスはその孤独が自我を肥大させ、選ばれたものと思い込んでしまい、大統領候補の殺害を計画した。本作の主人公はそうではない。溜まった鬱憤が自殺の妄想をさせ、最後には赤ん坊を振り回す。彼には生きる希望が見えなくなったんじゃないか。赤ん坊はまさに夢と希望にあふれた、溢れんばかりの愛を受けた、自分とは正反対の存在。それを見た彼は、生まれてきたこと自体が間違い、そう思ったんじゃないのか。彼にとって赤ん坊は否定せざるを得ない存在だったのかもしれない。
孤独は自分を無価値に思わせる。本作のラストは、その思いが爆発した結果なんだろう。根底は『タクシードライバー』と同じだけど、ちょっと違う。自殺大国日本らしいといえるのかな。ともかく、世の中のすべてをぶち壊したいと思っている人、全世界のトラヴィスにお勧め。

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デモリションマン(1993)
シルベスター・スタローンウェズリー・スナイプス共演のSFアクション。破壊屋の異名を持つ刑事スタローンは凶悪犯のウェズリー・スナイプスを逮捕するも、一般人を大量に死なせてしまったため、2人そろって冷凍刑務所へ。そして36年後、仮釈放審査のため解凍されたウェズリー・スナイプスが脱獄し、人をバンバン殺す。その凶悪ぶりに現在の警察では歯が立たないということでスタローンも解凍されるが・・・。
とにかく設定が超面白い。36年後はクリーンなものしか許されない世界となっており、とにかく無菌、無害主義なのだ。そのため警官が暴力の訓練を受けていないという。というのも、殺人は長年起こっていないし、そもそも事件というものすらまず起こらないらしいので必要ないというのだ。で、たまに事件が発生すると、犯人への対応は携帯機器を見ながらマニュアルに従うのみなのであった。現場主義のスタローンは呆れ返ります。
他にも、タバコやアルコール、塩分なども体に悪いからダメ。体を触れる行為も禁止されており、体液の交換なぞもってのほかのため、キスはもちろん、SEXもしない。いや、正確にはSEXはするのだが、未来のSEXは脳波交換でヤリます。つまんねー。妊娠は工場で人工授精。汚い言葉を言えば街中にあるコンピュータ端末から「汚い言葉です。罰金」と違反切符を取られる・・・とまあそんな変わり果てた世界でスタローンはひたすらオロオロするんですよ。もうアクションとかじゃなくてカルチャーギャップコメディとして楽しいんですね。あの貝殻はいったいどう使うというのだ・・・!
そんなスタローンを見て「うへぇ未来ってキモイなあ、無菌世界とか最悪だな」なんて思ってるとこんなギャグが登場する。大統領記念図書館の名前がシュワルツェネッガー図書館だというのだ。元俳優で大統領になったそうだが、それを聞いたスタローンは「ありえん」という顔をする。いやはや、実際後に州知事になるとはね。日本も笑ってられないけど。まあとにかく超面白かったです。

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