リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た映画の感想。

黄金を抱いて翔べ

本物にこだわったカーアクションに爆発、容赦ない暴力など、井筒監督が好きなのであろう70年代の映画みたいな雰囲気の味わえる映画だったと思う。設定は現代だというのに若干古臭い感じもするけど(小道具とかセキュリティとかネット感のなさ)、大阪という土地を使って泥臭いケイパーものをやるというのには成功しているんじゃないか。役者の演技も素晴らしいし(特に浅野忠信)。


ストーリーもこれまたニューシネマそのものという感じ。人生どん詰まりになったどうしようもない若者が、なんとか再起をかけて金塊の強奪に挑む。なんでこんな無謀なことをするのかって、そうするしか道は残ってないからだ。彼らは戻る道がない。かといって進む道も見えない。打破するには、デカいことを起こさなければ。
また強奪するのが紙幣ではなく金塊だというのがいい。強奪するとはいっても、金塊がほんとにあるのかどうかはわからない。手に入れたからといって、本当にマトモになれるかどうかもわからない。それでも唯一の可能性を信じてやるのだ。そんな無謀な、途方もない夢みたいな計画で狙うなら、紙幣よりも金塊の方がお似合いだ。


僕はこの映画、少し『真夜中のカーボーイ』に似ているかもなと思った。フロリダ=金塊と考えれば、少しそんな感じもしないだろうか。最も、本作で妻夫木聡が演じた幸田の方が帰る場所を見つけて自由になれた分幸福ではあったかもしれないが。


ちょっと残念だったのは、中盤、物語がややこしくなるあたり。良くわからないし、とっとと強奪の方に話が戻ってくれないかなあという感じ。まあそれでも面白い映画ということに変わりはない。ザラついた、渋い日本製のアクションエンターテイメントとしては出色の出来であると思います。ダサくなりがちな銃撃戦もかっこよかったと思うよ。

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)




悪の教典

三池崇史はやっぱりこういう作品の方が楽しいですね。つまりモラルを感じさせない、悪趣味とバイオレンスが炸裂した作品ってことです。本作の主人公蓮見先生(通称ハスミン)はサクサク人を殺していくのでストレスがなく、気持ちいい。うじうじ言ったりしない。邪魔になったらハイ、サヨウナラ。人を殺すこと、というか他人を何とも思ってないんですよね。鼻歌なんか歌いながら殺しちゃったりして。後半、文化祭前夜の学校を舞台に繰り広げられる大殺戮は特に最高で、まあホントに人が死ぬだけ。それだけですよ。例えば生徒が勇気を出して状況を打破するとか悪に立ち向かうとか、そういうのは別にないです。


なんだそれ、ひどい話だなとお思いになるかもしれない。けれどどうしても楽しいんだこれが。ハスミンを応援しちゃう。なぜなら彼が人間の心に潜んでいる黒い欲望を刺激する存在だからだ。ハスミンは凄く生き生きしている。人望はあるし、JKとヤれるし、悩みの種は圧倒的な力で解決してしまえる(行き当たりばったりではあるけど)。理性というリミッターを解除してしまえる。だから「ああいいな、俺もこうできたらな」なんてことをふと思ってしまうのだ。これは『時計じかけのオレンジ』のアレックス的だ。役自体は『キラー・インサイド・ミー』みたいで全然違うんだけど、悪の魅力に魅せられて憧れてしまう、そして憧れてしまうことの恐ろしさという点が似ているのだ。


そんなハスミンを演じるのは伊藤英明。これがナイスキャストと誰もが納得するであろう素晴らしい演技で、『海猿』に次ぐ代表作となるのは確実。若手の役者さんも良かったなあ。『ヒミズ』の二階堂ふみ染谷将太もいいけどハスミンと関係を持つ美彌役の水野絵梨奈、この人が良かった。あと吹越満


というわけで、色んな悪を全面に感じさせる良いエンターテイメントだったと思います。三池崇史お得意のホモネタ、下ネタも今回はストーリー上必要なものとして機能していたので良かった。欲を言えばせっかく猟銃使ってるんだからヘッドショットを見せてほしいとか、そういうことも思いますけどそれは求めすぎってもんでしょう(それにハスミンは殺しに爽快感は求めてないから仕方ない)。ナイフで首ぶっさす所とかよかったんで、それで満足しときます。いったん倫理とか道徳は置いておいて、悪の快楽に酔いしれましょう。