リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その11

TOKYO TRIBE園子温監督がラップ・ミュージカルに挑んだ意欲作だが、はっきり言って面白くない。ラップについては、僕は詳しくないけど染谷将太が最初に唄い出すところから基本的には皆カッコよく聞こえるので、そこはいいと思う。また役者で言えば、鈴木亮平はまさに肉体言語という言葉が当てはまる魅力的な人物であるように映っていたし、中盤から登場する、大司教の手下を演じる丞威という人もやたら凄くて面白い動きをするなと思いながら見ていた。
ではこの映画の何が問題かというと、画面が全く広がらないところである。冒頭、作りこまれたセットの中をぐりぐりと進んでいくカメラワークは、『黒い罠』のようで見応えがある。全体にセットもいい。しかし色々なトライヴと呼ばれる地区が出てくるにもかかわらず、それぞれいったいどのような場所なのかはまるで見せない。初めに見せた画面以上の広がりが、この作品にはないのだ。あの、役者本位の『レ・ミゼラブル』よりも、映画を見ている気持ち良さが味わえないように僕には思えた(あちらほど癪に障る人物がいない分、マシではあるけど)。画面も広がらなければ、ムサシノとブクロ以外はどこを見てもだいたい同じような色遣いで、何故争っているのか、何故彼らはその場を愛しているのかが、まるで分からない。
それと僕が思ったのは、単に無茶苦茶やってるだけでは、面白い映画なぞできやしないという事である。竹内力がほぼ聞き取れない言葉でなにかを言いだしたり、何でもありな展開にしてしまっても、おふざけノリや力技で乗り切れると思ったら、それは大間違いなのだ。確かに、エネルギーで突っ走れる映画もある。例えば石井聰互監督の、特に『爆裂都市』は今回の作品とも色合いが近いだろうが、これはもう、画面に叩きつけられている力が違うとしかいようがない。『TOKYO TRIBE』はコントロールされた祭であって破壊力という点ではイマイチ物足りないし、むちゃくちゃは、鈴木則文石井輝男の如き強力な下地があってこそ映えるものなのだ。だからこの映画に必要必要だったのは『時計じかけのオレンジ』に対する目配せ等ではなく、キッチリドラマを語り、映画的な視覚の効果を施した上での馬鹿騒ぎだったのではないかと僕は感じた。とはいえ、全編ラップのミュージカルを成立させたというだけでも凄いとは言えると思う。

Tokyo Tribe-Original Movie Soundtrack-

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『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』
面白いなと思うのは、足場の不安定な場所で行われるアクションである。例えば、敵を追い、ロープ伝いに崖を下っている最中で起こる攻防や、海上での大怪獣対決がそう。とにかく動いて動いて、左右も上下も水中も、ツイ・ハーク演出の下、凄まじいアクションが展開する。ツイ・ハークといえば『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズでも、足場の不安定な場所でのアクションが一番の見どころだったと僕は思っており、こういった演出はお手の物なのだろう。正直、漫画的といえるほどやりすぎな演出やちょっと合成の甘い画面には、はじめ少し「大丈夫かな・・・」と思ったのだけれど、クライマックスでの畳み掛けは本当に凄かった。特に大怪獣バトルは、まさかの大興奮。怪獣に襲われるという恐怖、そんなのありかよと思わせる笑い、そして怒涛の燃え展開が、手に汗握らせる。怪獣だけでなく半漁人や虫に寄生された人間等、怪奇テイストも面白いし、あとはエンドクレジットで見られるイメージボードが無茶苦茶面白そうでしたね。

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『喰女』
三池崇史久々のホラーは、血の滴るようなタイトルデザインから雨で水の滴が零れ落ちる場面へと転換する冒頭から、結果的には柴崎コウが色々な物を滴らせ「落す」こととなり、さらに市川海老蔵まで大切なものを落としてしまう映画であった。
四谷怪談を現代に応用させ、舞台と実生活、妄想と現実、さらには、この『喰女』という映画に出てくるキャラクターと実在の海老蔵など、様々なものが混然一体となっていくアイデアは面白い。また照明、舞台で使われるセットも見応えがあるし、日常風景であろうとどこか「つくられた」感じに見せつつ、終盤登場する黒ビニールに包まれた異様な部屋では生々しい描写しているあたりなど、注目すべきところは多かったのだけれども、怖いかと聞かれるとイマイチ怖くないというのが本音。『オーディション』と同じく、狂気じみた執念と痛い描写で迫ってくる女は、僕にとって「怖い」とはまた違うものであり、しかも本作は痛み描写や異様さにおいても、少し甘くなっているような印象を受ける。個人的にはショッキングな見せ場よりも、海老蔵が一生懸命床を掃除しているところになぜか、最も恐怖を感じてしまった。
しかしこのグチャグチャとした映画が、最終的に「余計な心は起こさず、仕事終わりはさっさと家に帰れよ」というやたら日常的な教訓に落ち着くところに僕は、「やっぱり、人間真っ当に生きるのが一番だね!」と妙に爽やかな気持ちになった。この(一応)腑に落ちる感覚はJホラーではなくおそらく怪談物のテイストなのであって、そういう意味でもやっぱりこれは、四谷怪談なんだなぁと思った次第でした。

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