リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『テッド』を見た。

ヌイグルマー!!
日本でも大ヒット中のコメディ映画。監督はセス・マクファーレンという、俳優、監督、アニメーター、コメディアン、歌手などいろいろなことのできる才人。先日のアカデミー賞では司会も務めていましたね。主演はマーク・ウォールバーグミラ・クニス。テッドの声は監督が担当しているそうな。


イジメられっ子からもシカトされるような友達の居ない少年・ジョンはクリスマスに両親からもらったクマのぬいぐるみを見て思った。「キミとおしゃべりできたらなぁ」と。そして奇跡は起こった。何とクマが自ら歩き、喋っているではないか。こうして命を吹きこまれたぬいぐるみ・テッドはジョンの親友になる。そしてそれから27年後。そこにはうだつの上がらない中年になったジョンと下品に成り果てたテッドがいた。彼らは固い絆で結ばれており、ぼんくらな楽しい日々を謳歌していたが、4年付き合っているジョンの彼女・ローリーが「あたしとテッドどっちが大事なのよ」と迫ってきたからさあ大変・・・。

ストーリーはよくあるボンクラ男が大人になる話です。「男同士でいるのが一番楽しいぜイエー!」みたいなノリの、少年の心を保ちすぎたオタク野郎が、女をきっかけとして大人になっていくというね。例えばサイモン・ペッグニック・フロストのコンビ作品と同じですよ。
ただそのコンビの片方が可愛いクマのぬいぐるみであるという点。この発想がやっぱり面白いですね。見た目は可愛いのに声はおっさん。ドスケベで酒飲みで、しかもマリファナまでやってる。このかわいらしさとのギャップがたまらんですよ。またテディベアっぽい動きと言うか、手足の動かし方や歩き方とかが最高です。ジョンと殴り合うときの動きが意外にも見ごたえのある格闘シーンだったのもまた良し(殴打時の音がいいね。お前中身綿じゃねえのかよって)。ちなみにこのテッドが最初に魂を吹き込まれたときの<全米で一気に大人気に→飽きられる→警察沙汰の事件を起こす>という流れが、人気子役のありがちなパターンみたいで面白いですね。
日本でこの手のブロマンス的なコメディはそんなにウケないイメージですが、ヒットした要因はやっぱりこのクマちゃんのキャラクターでしょう。しかも女性にも人気があるらしいじゃないですか。それで「テッドのこの感じ、なんか他にもあったような・・・」と思っていたんですが、あれだ、これケンドーコバヤシさんが女性にモテるのに通じる感覚だ。男らしい見た目に、下ネタ好き。オタクっぽいところもあるし、かわいらしさもある。まんまじゃん!テッド=ケンコバか!テッドの日本語吹き替えは有吉弘行さんが担当していますが、キャラクターとしてはケンコバさんの方が合っていたかもなあ。吹き替えを見ていないのでわからないんですけど。



本作はそんなクマによる出オチ的な面白さでは終わらず、「大人になる」ということについて描いていく。テッドはジョンの子供っぽさの象徴であり、ジョンは彼女との生活を選択するためテッドを追いだす。いつまでも『フラッシュ・ゴードン』を見て喜んだり、男同士で夜通し騒いで馬鹿やるような生活とはサヨナラをし、大人の男になるために。
しかしジョンは分かっていなかった。彼が抱えている問題は、テッド云々で解決できるものじゃないということを。ジョンは結局テッドに誘われると仕事中でもローリーとの大事なパーティーの最中でも抜け出してしまう。
彼が問題だったのは親友づきあいや趣味の問題ではなく、この部分だ。ジョンは自分の問題をテッドに押しつけている。本当に依存しているのはジョンの方なのに。これが彼にとって一番の問題だった。だからテッドを追い出すだけではうまくいくわけがない。自分の本当の問題にジョン自身が気づかないと意味がなかったのだ。
大人になっても映画や漫画や音楽やテレビが好きな人はたくさんいる。ただ彼らが大人でないかというとそういうわけではない。やることはしっかりやって、趣味は趣味で楽しむ。そういうケジメを持つということが「大人になる」という事なのだ。この映画はそういうことを言っているんだろうなぁと僕は思いました。



と、まあそういうことも描かていて面白い作品ではありますが、ちょっと残念だった部分もありまして。それはギャグですね。いや、面白いんですよ。テッドがド下ネタをかましたり、いちいちセリフが酷かったり、勤め先の店長とのやり取りなんかも爆笑しました。そういう部分はいいんです。ただ80年代カルチャーへのオマージュは、まだ生まれてもいなかった僕にとっては良くわからない部分も結構ありましたね。映画ネタは別にいいですし、最もフィーチャーされていた『フラッシュ・ゴードン』も劇中でさんざん触れていたので問題なかったのですが、細かいテレビ、人物、おもちゃなどは「なんのこっちゃ?」と思う部分もありました。まぁこれはそもそもターゲットじゃねえよ!と言われたらそれまでですが。



あと残念では別にないのですが、登場するキャラクターについてもちょっと思ったところがあるので感想を。まず悪役として配置されていた、ローリーの上司について。この人確かにセクハラナルシストクソ野郎(自宅のインテリアやらお宝などを自慢してるときは殺してやろうかと思った)ですが、実際そこまで悪いやつではないように思いました。いや、ホントスゲェウザいんですよ。でもなんというか、オチ含めて作り手の「こういう男ってムカツクよねー」とでもいうような気持ちがビンビン伝わってくる役だったんですよね。同感ではあるんだけどさ。
もう一人、作り手の気持ちが伝わってくるのはローリーですね。何故かって、優しすぎですよこの人。バリバリのキャリアウーマンで美人でしかもグイグイ夜も誘ってくる(というかジョンから誘うシーンはなかったんじゃないかな?)。その上、ジョンに対し、収入が低くてもガキっぽくても全然かまわない!って言い、ものすごく深い愛情で接してくれる。これはオタクの理想なんじゃないかなと思うんですよ。なので結局、この人の懐の深さゆえの結末に見えちゃわなくもないんですよね、この映画。



というわけで、凄く良かった!と言うほどではありませんが、十分面白かったです。「都合良いなあ」と思う部分や「世代的にドンピシャだったらなあ」と思う部分もありますが、誰が見てもそれなりに楽しめる作品にはなっていたと思います。それにちょっと批判っぽく書きましたが、ローリー演じるミラ・クニスがもうむちゃくちゃ可愛くて。それだけで映画館行く価値はあるってもんですよ。他の出演作もチェックしなきゃなあ・・・。