リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『死霊のはらわた』を見た。

悪霊セラピー

1981年に公開された『死霊のはらわた』のリメイク版です。オリジナルの監督だったサム・ライミは制作・脚本に回り、監督はウルグアイ出身の新人フェデ・アルバレス。脚本には『JUNO』などで知られるディアブロ・コーディ。


薬物依存症のミア(ジェーン・レビ)はリハビリのため、兄や友人ら5人と山奥にある小屋を訪れる。そこで彼らは「死者の書」と呼ばれる書物を発見し、中に書かれていた呪文を唱えてしまったことで死霊をよみがえらせてしまい、憑りつかれたミアは仲間を襲っていく。

みんな大好き『死霊のはらわた』です。なのですが、今回のリメイクでは元にあった、それこそ特徴である部分の過剰な描写と、それによるコメディ的要素は完全に封印されています。代わりに追及されているのは「リアル」さで、例えば男女が汚らしい山小屋に行く理由が「薬物依存のリハビリのため」になっていたり、クレイアニメで撮られていた笑っちゃうほどの残酷描写は、特殊メイクで痛覚を刺激するような描写となり、全然笑えず、ひたすら痛い。
こういった改変に「こんなの『死霊のはらわた』じゃないやい!」と思う人もいるでしょう。確かにそうかもしれません。ただ、僕はどうせリメイクするなら全然違う映画になっていた方が面白いじゃんと思います。同じなら元のやつ見ればいいし、どうせ同じ話作ったら作ったで「前の方がよかったよね」と言われるでしょうしね。



本題に戻りますが、今回、痛さを追求した結果の描写は本当にキツイものがあります。思わず「あー!痛い痛い!」と声を出してしまうほどです。特に体に刺さった針や刀をヌーッと抜いていくところ、カッターナイフで自分の舌を割くところなんてもう「やめてーっ!」って感じですよもう。悲惨です。そしてラストでは尋常じゃない量の血が流れます。ここは今までさんざん痛かった分を発散するかのような派手さです。こんな痛みを伴い且つ爽快なスプラッター映画というのも、なかなか見られないものだと思いました。
ところで、こういった体の痛みを伴う描写というのは、薬物が自傷行為の一つであることからくるのでしょう。それを表すように、死霊に憑りつかれた人は、まず自分の体を痛めつけています。
本作はもちろん死霊に憑りつかれた人たちがひたすら肉体を痛めつけてギャーギャー叫びながら死んでいくホラー映画ですが、薬物依存リハビリの映画ともいえるかもしれません。というか、ヤク中の目から見たリハビリの苦しみを『死霊のはらわた』の型に当てはめたようにも見えると僕は思いました。ヤクを断ち切ろうとしておかしくなる自分と、ヤクを抑圧する人間たちが、まるで悪魔のように見える、という感じですかね。最終的に誰が主人公でどう着地するのかを考えると、僕にはそう思えたのです。「手を切る」と言う描写もありましたしね。



そんなリアルさを追求した描写や、説得力のある設定は良いと思います。しかし、そうするのであればもっと人物描写を練った方がよかったのでは?とも思います。登場人物は5人いますが、ミアとその兄・デイビット以外の人間関係の描き方がかなり薄い感じ。特に不満なのはデイビットとその恋人の関係です。「彼らはそういう関係である」くらいの描写しかなく、またその恋人が死霊に憑りつかれた際にも葛藤などほとんどないのは残念。こういった人物の悲壮感や葛藤が全くないのは、この方向性ではもったいないと思います。
他にも、看護師の女性には終盤、全然出番がないのがかわいそう。頭を砕かれて死ぬシーンは壮絶ですが、前半で頑張ってそこであっさりいなくなってしまうのですね。これは勿体ない・・・。死霊化ビジュアルはかなりイケてたのにね。
オープニングもどうかなと思います。本作は死霊に取りつかれた少女が燃やされるシーンから始まるのですが、そんなサービス、いりますかね?素直に山間を走る車を空撮で捉えたところから始めても良かったのでは、と思います。ちなみに、その車をとらえたシーンは天地逆さまになっていて不穏な感じがあって良かったと思います。



というわけで、非常に「痛い」描写が楽しい、良いリメイク作品ではあったと思います。そりゃオリジナルの衝撃度に比べれば新鮮味などはありませんが、スクリーンでこんなゴアゴアな映画を見るという事もあまりないので、それだけで僕は満足ですよ。この監督の次回作にも期待ですね。