リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『47RONIN』を見た。

エキゾチック忠臣蔵
忠臣蔵をモチーフとしたファンタジー時代劇。主演にキアヌ・リーブスを据え、共演には真田広之浅野忠信柴崎コウ、菊地凜子、赤西仁ら日本人キャストが集結。監督はCMやMV等で知られ、映画は初監督となるカール・リンシュ。


天狗の子として恐れられた混血の少年カイは、幼きときに赤穂の領主・浅野内匠頭(田中萊)に助けられ、鬼の子と周囲に嘲笑されながら育つ。青年となったカイ(キアヌ・リーブス)は浅野家の姫・ミカ(柴崎コウ)と秘かに通じ合っていた。ある日、赤穂の地を狙う吉良(浅野忠信)はミズキ(菊地凜子)という謎の女の協力を得て、徳川綱吉(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)の前で浅野を陥れることに成功。浅野は切腹を命ぜられ、吉良が代わりに赤穂を支配することに。カイ含め、浅野家家臣・大石(真田広之)らは浪人となり領地を追われるが、彼らはいつか仇討することを心に決めていた・・・

予告編から想像できる通り、正調時代劇とはほど遠いファンタジー映画である。忠臣蔵と言いながら、赤青黄色で分けられた衣装・セットはおそらく黒澤明の『乱』からの影響だと思われ、さらにそこに『ロード・オブ・ザ・リング』的味付けを施すわけだが、これは悪いことではない。本格的な時代劇、特に忠臣蔵という題材であれば、すでに日本には沢山あるので、どうせやるのであれば、異国情緒あふれる、無茶苦茶な作品にして欲しいというものである。
しかし、これがどうも弾けきれていない。メチャクチャなことをやってくれるのかと思いきや、中途半端なところでストップがかかってしまっている印象を受ける。魔獣や妖術も鴉天狗も脳内江戸城下町も何もかも、ファンタジー世界を構成するにはいまひとつの力しか持ち得ていないのだ。



その一番の理由は脚本の下手さにある。これはまるでゲームだ。各ステージがあり、そこにいる敵を倒して次のステージへ。問題は、この各ステージが、まるで後に生きてこないという点である。どのステージも駆け足で進み、それぞれの舞台や話がしっかり描かれることはなく、結果ファンタジーの心地よさもドラマも生まれることはない。色々やりたかったのだろうという事は伝わるが、それが裏目に出ているとしか言いようがない。さらにこれだけ詰め込めば少なくともテンポはいいのだろうと思うと、ドラマがまるで語られないためにむしろダラダラしているという印象を受けるのも問題だ。
正直、忠臣蔵はこの際ほとんど捨ててよいのだ。「主君が殺されたから仇討する」という骨格だけ一応残しておいて、あとはもう、自由にしていい。本作は忠臣蔵を説明する部分に時間を使いすぎている。そんなものはさくっと終わらせて、もっとモンスターが暴れたり、ファンタジックな世界を楽しませ、浸らせる工夫をした方がいい。それができていないのがこの映画最大の残念ポイントだろう。忠臣蔵を残したがために、キアヌと柴崎コウ恋物語もうまく絡み合っていない。



話が薄いのと比例してやはりキャラも薄い。ドラマがないので、彼らがどうなろうとこちらには何の感情も起こされないのだが、そもそもの個性も乏しい。それでもキャラクターとして魅力的だったのは菊地凜子くらいで、あとは長崎の出島にいた全身入れ墨男や鴉天狗の方が、登場時間は短くともよっぽど印象に残る。彼らが仲間として討ち入りに参加してくれれば、まだラストも盛り上がれただろうに。
だいたい、真田広之を擁しておきながらアクションシーンが見づらくかっこ悪いというのも大問題だ。対キアヌ戦は悪くはない。しかしなぜ、最後に吉良と刀でしっかりと戦うところを見せなかったのだろうか。結局殴り合いによる決着では、勿体ないとは思わなかったのだろうか。浅野忠信(そういえば浅野忠信北野武版『座頭市』に出ていたではないか)だってそのせいで結局、何の個性も面白味もない悪役で終わっているではないか。剣の稽古は何のためにしていたんだよお前ら。
鎧を着た巨人も酷い。キアヌをも圧倒する力を持ち、どう倒すのだろうと思っているとなんてことない爆発(しかも不意打ちでの)で退場。あんなに存在感出していたのにもうガッカリですよ。
ここは例えば、初めキアヌを邪険にしてた男を使えばいい。キアヌ絶体絶命のピンチに彼が助けに来て、「狩りのときの借りは返したぜ」みたいなね。それで2人で倒すとかそういうのでいいでしょうよ。こんなべったべたなのでも、肩透かしで終わるよりはよっぽどマシだと思う。



さて、こんな映画でありながら、実は妙に切腹にはこだわりがあるというのが面白い。46人同時切腹という離れ業は置いておいても、切腹とは一応は名誉なのだと理解しているし、割と服装や作法がしっかりしている。あとここで面白かったのは、真上からのショットで切腹が行われる場を見せるところ。本作はなぜかそういった俯瞰ショットが多く、隊列を組んでいるところなどの美しさを見せたかったのかななどと思わせる。とはいえ、それがうまくいっているかというと、首をかしげる感じではあるが。山場である芸者集団に紛れて吉良を襲撃するシーンも、位置関係をうまく把握させることができていないように感じた。
また、『ロード・オブ・ザ・リング』のようと書いたが、それはファンタジーだからそう書いただけではない。本作で一番LotRらしいのは、移動のショットだ。本作は次の場面へと移動する際、どこにあるのかわからない雄大な自然の中、馬を駆けるシーンを挿入する。そしてバックには勇壮な音楽。スケール感は劣るが、ここに僕はLotRらしさを見つけた。



というわけで、日本という謎の異国を舞台に、ファンタジーをやろうというのは面白いし、一応ちゃんと武士や作法に敬意を持っているところなどかわいらしい映画ではあるが、イマイチ弾けきれなかった惜しい作品であった。これを思うと『300』とか『忠臣蔵外伝 四谷怪談』はすごいもんだなぁと思いますね。だってペルシャ軍を思いっきりモンスターにしたりお岩さんの超能力で赤穂浪士を手助けするというぶっ飛びっぷりなのにちゃんと面白いんだからね。カール・リンシュ監督はまだ一作目ということで、もしまた日本を舞台にした作品を作ることがあったらそういった無茶な作品をもっとお手本にしてほしいと思います。できれば、実写版鬼武者をお願いしたいね。

47 RONIN

47 RONIN