リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ウルヴァリン:SAMURAI』を見た。

ニンジャ、サムライ、ヤクザ、ウルヴァリン
2000年に公開された一作目から続く『X-メン』シリーズ6作目。シリーズ全てに出演しているウルヴァリンの苦悩と再生が日本を舞台に描かれる。主演はもちろん、ウルヴァリンを演じてもう13年目となるヒュー・ジャックマン。日本のテレビ番組での旺盛すぎるサービス精神が好感を呼ぶ人である。日本からは真田広之が敵役で出演するほか、モデルの福島リラ、TAOらも好演。監督は『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』『3時10分、決断のとき』などの名作を残すジェームズ・マンゴールド

かつての仲間であり、愛した女性でもあるジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)を殺してしまったことから罪悪感にさいなまれ、カナダの山奥で暮らしていたウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)は、ある日酒場でユキオ(福島リラ)という女性と出会う。ユキオは、日本の大企業・矢志田グループ総裁に頼まれ、ウルヴァリンを日本へ招待したいのだという。矢志田は、第2次世界大戦中、長崎に落とされた原爆から身を守ってくれたウルヴァリンに、恩返しがしたいというのだ。挨拶だけのつもりで日本に訪れたウルヴァリンだったが、矢志田に「不老不死の力を取り除いてやろう」と言われ困惑する。そしてその夜、矢志田は死亡した。ウルヴァリンは葬儀にも参加するが、そこで矢志田の孫娘・マリコ(TAO)がヤクザからの襲撃を受ける。ウルヴァリンマリコを連れ追ってから逃げるが、驚異的な治癒能力を持つはずなのに、ヤクザから受けた傷が一向に治らない事に気付き・・・。

ヘンテコ日本描写の鏡のような映画である。ハラキリに始まりサムライ、ヤクザ、ニンジャ、フロ、ラブホ、日本刀、剣道、ネオン、・・・わかっているようでわかっていない面白描写が沢山だ。かつて「巨人・大鵬・卵焼き」といえば昭和の時代に「3大子供が好きなもの」の代名詞だったようだが、海外では「ニンジャ・サムライ・ヤクザ」の3つがウケるようである。もちろんこれは悪いことではなくてむしろ大歓迎。なにせこういった日本描写は海外の映画にしかできないからだ。しっかりした日本描写が見たければ日本の映画を見ればいいのであって、そもそもコミック映画の、しかもリアル路線というわけでもない映画に対してイチイチ「こんなのおかしい」と文句を言うのは不粋に思う。それにあちらは日本の文化が好きでやっているという感じがするし、日本が外人を映画に出すとき、未だに語尾に「〜デース」をつけたりするのに比べればよほど誠実だと思う。



ところで、ウルヴァリンってキャラクターとしては面白いけど、アクションに関しては実は難しいところがあると思う。ヒュー・ジャックマンの肉体自体は文句がつけようのないくらい完成されていてほれぼれするが、爪を武器にして戦うというのが、殴り合いともナイフとも微妙に違うもので、間合いや武器の性質上、工夫しないとあんまりおもしろいアクションにならないように思うからだ。その点、今回は凝ったものが見られてよかった。肉体治癒に制限があるというのも良いが、何と言っても新幹線の上でヤクザと戦うシーン。これは視覚的な見応えがあってすごく面白かった。まぁ一番すごいのはドス一本でウルヴァリンの持つアダマンチウムの爪と渡り合い、時速何百キロという速さにも耐えるヤクザなんだけど。
アクションシーンといえば、真田広之の立ち回りも凄くカッコいい。最初出てきたときは2刀流でくるくる回転したりするよくわからん剣道を見せていたが、ウルヴァリン相手に技をキメるところなどはカッコよかった。それだけに役柄が小悪党だったのが残念。



脚本に関しては、これはもう残念としか言いようがない代物だった。前作までで生きる希望とか糧を失ってしまったウルヴァリンが再び戦士として生きていくまでを、再生能力の喪失と再生と共に描くというのはわかる。ただ、結論に行きつくまでの過程が弱い。人物描写がフワッとし過ぎなのだ。
例えば、マリコウルヴァリンに好意を寄せるようになるわけだけど、初めの印象悪いところからそういう関係になるまでがビックリするほど急。ユキオとのパートナー的関係性も描けているとは言い難い。マリコとユキオの疑似姉妹や、マリコと祖父や父との関係が、とりあえずこういうものだよ、という提示以上のものになっていないので、どうにも薄い。
そもそも、ウルヴァリンが矢志田家のゴタゴタに巻き込まれること自体なんとな〜くの成り行きというだけで、確固たるものがない。それが「ウルヴァリンの生きる意志の浮遊感を表現している」と言われれば「ハァそうですか」としか言いようがないんだけど、結局ドラマが弱いのは間違いないし、話が地に足ついてる感じがしなくて乗れないことに変わりはない。
加えて、本作はウルヴァリンらvs矢志田家vsニンジャ軍団という三つ巴の様相を呈しているんだけど、整理されてなさすぎじゃないかなコレ。それぞれ何がしたいのかというのがどうも場当たり的で、芯の一本通ったストーリー運びとは思えなかった。
あと刀のエピソードとか別にいらなくね、とか、長崎で地元民と触れ合うほのぼのとした部分もなんかそれはそれで面白いけどアクションかギャグにした方がテンポよくね、とか思ったりもしますよ。ラストに出てくる敵の正体も急で盛り上がらないなぁと思った。



と、文句をつけたくなるところはたくさんあるけど、最初も書いたようにヘンテコ日本描写映画としては面白いし見所も色々あって結構楽しい映画ではあった。それにヘンテコと言ってはいるけど、中国とゴッチャになったりはしていないし、ちゃんとわかっているように思えるところもある。原爆描写も丁寧な方だ。というわけで、ジェームズ・マンゴールド作品としてはちょっと残念だけど、気軽に楽しむには悪くはない作品ではあった。
最後に提案なんだけど、本作はもっと人物を絞り、ひたすらに南を目指すロードムービーにして、全体をザラッとした雰囲気にすれば面白かったと思う。で、凄惨なシーンはひたすらに凄惨にする。爪で肉をえぐれば血は吹き出し、肉は飛び散る。野生のように生きさせることで、ウルヴァリンの寄る辺ない浪人という感じは出せると思うし、一人の女との交流という話もうまくいく気がする。まぁ、コミックのシリーズで突然そんなことできるわけもないんだろうけどさ。