リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』を見た。

新しい未来追いかけながら
2005年に稼働を開始したアーケードゲームが、家庭用ゲームへの移植、シリーズ化、さらに2011年のアニメ版という流れを経て映画化。興行成績は39スクリーンでの公開ながら初登場5位を記録し、拡大公開も決定。監督はテレビシリーズと同じく錦織敦史


数々の試練を乗り越え、今やトップアイドルへと成長した765プロのアイドルたち。国内だけでなく、海外へと活躍するアイドルも出てきた中、新たなるステージとしてアリーナライブの開催が決定される。今までにない大舞台に向け、プロデューサー(赤羽根健治)は2つの提案をする。ひとつは、バックダンサーの導入。もう一つは、今度のライブではリーダーを決めるということであった。リーダーに選出された天海春香(中村繪里子)は、戸惑いながらも期待に応えようとする。バックダンサーには、スクールのアイドル候補生7人が選ばれた。765プロのメンバーとスクール生はライブに向け、合宿を行うことに。緊張と不慣れの中、候補生たちはうまく踊ることができずにいたが、765プロの面々は先輩後輩の垣根を越え交流を図ることでチームワークを育んでいくが・・・

アイドルマスターというコンテンツは長い歴史を持っているが、僕はゲームはプレイしたことはなく、初めて触れたのは2011年に放送された全25話のアニメ版だった。何故見始めたのかその理由は覚えていないが、つまりまぁ、僕はファンだとしても「にわか」ということである。
しかも、そのアニメ版も面白いとは思ったが、特別素晴らしくはなかった。ちょっとした行動や映し出されるものでキャラクターの個性や心理を語るなど、ところどころ演出に丁寧なところは見られて良かったのだけれど、ストーリーで腑に落ちない部分がいくつかあったのだ。各エピソード(各キャラ回)の出来栄えにかなりバラつきがあるのも気になった。



ではなぜ、そこまで面白いと思わなかったアニメの劇場版を見に行ったのか。それは単純に、アイドルマスターが好きだからだ。ゲームもせずアニメにも魅力を感じないのになぜ好きなのかという話は後に書くことにして、とりあえずは本編の感想から書いていこうと思う。
本編を見ていて、僕は大きく2つの要素があるなと思った。一つはもちろん、アイドルの映画であるということ。もう一つは、青春映画であるということだ。
アイドル映画であるという事を強く感じたのは、アイドルを描いているからとかライブシーンがラストにあるからとか言うことだけではなくて、リアリティよりキャラクターを優先させているシーンがいくつかみられたからである。例えば、合宿中に新曲である「ラムネ色 青春」をBGMに、それぞれが奮闘する様子の描かれる場面がある。それだけなら普通だが、途中から皆が夕陽を背にその曲を歌うシーンが出てくる。冷静に考えると、これは不自然ではないか。初めに唄う場面があって、そこから色々なシーンが挿入されるのはよく見るが、そうではなく挿入歌が流れる途中で突然登場人物たちがそれに合わせて歌いだしたらおかしくはないだろうか。
また、合宿最後の練習でせっかくだからと律子を中心に据えて踊るシーンがある。これもおかしい。元アイドルとはいえ、ライブのため行われた合宿の最後に、当日には居ない人物を想定した陣形で踊るのは変ではないか。他にも、後半春香が雨の中ある人物と対話するところでライブも控えているというのに何故誰も彼女に傘を差しださないのかと疑問に思う。それにそもそも、スケジュールを考えれば13人の人気アイドルがみんな揃って合宿なんて無理な話ではないだろうか。
しかしこれは問題ではない。なぜなら、これらのシーンは本当っぽさよりキャラクターの輝きを優先させているからだ。アイドルの面々が楽しげに歌う姿は魅力的だし、律子にだってアイドル的な見せ場がほしいし、雨にうたれるのは心情的意味があるし、そしてそれは晴れることも決まっているのだ。いくら無理に思えても、海の見える美しい風景での団体行動は彼女たちにとって久しぶりの(そしておそらくは最後の)楽しみだ。あの生き生きとした姿は、魅力的ではなかったか。だから、これらのシーンはおかしいのではなく、アイドル映画としてありだと僕は思った。



次に、青春映画としての面について。ラジオで錦織監督(か鳥羽プロデューサー)はこのアニメにおけるPの役割について「女子高の先生」と言っていた。それを踏まえると、僕にはこれが青春映画のように見えた。つまり、先生と生徒、先輩と後輩の関係。アイドルという遠い世界を描いているようで、実はこれは身近にあった、かつての学校生活のようだ。
青春映画の面白さは色々あるが、その一つに次のようなものがあると思う。人生の中にある一瞬の輝き。それが長く続けばいいのにと思うも、いつか終りがやってくる儚さ。これがまず青春映画の面白さであり、そしてその中で一番重要なのは、登場人物たちの未来が開かれていることだと思う。何故なら、登場人物たちの人生は映画の後もこれからまだまだ続いていくからである。青春映画が面白いのは、儚さの先にある人生を想像させるからではないか。そしてそれは、儚い命のアイドルと親和性が高いのである。
本作では、登場人物がそれぞれ地道に一歩ずつ未来へ進んでいく中、春香と可奈はなかなか前に進めないキャラクターとして登場する。だからこの2人が物語の中心になる。Pには相談できない。なぜなら、彼は居なくなってしまうからだ。自分たちの力で解決しなければ彼女たちは前へ進めないという事になる。彼女たちは、自分たちなりの結論を出さなければいけない。この葛藤と成長。今という瞬間の先にある未来への視線こそ、この映画が目指したものであろう。
「10年後、春香はどんなアイドルになっているのだろう」これは劇中Pが言う言葉だ。僕にはやはりこれが、先生が生徒に言う言葉に思える。するとアリーナライブはさしずめ卒業式だろうか。彼女たちの立派になった姿を見ることで、Pは安心して別れる(渡米)ことができる。やはりこれは、青春映画だったなと僕は思った。まぁ、別に青春映画という言い方はしなくてもいいのだが、とにかく重要なのはこれが閉じこもった世界の話ではなく、765プロ(876・961もそうだが)のアイドルにとって未来の開かれた話にしようという、作り手の愛情がひしひしと伝わってくる点なのだ。



世界が閉じたまま終わってしまう作品の多い中で、ちゃんと先を見せてあげようというのはいい。それに今回もやはりアニメ版に続いて些細な描写が丁寧だ。そういうところに好感は持てる。だが、言いたいことも、やはりある。
最大の問題点はライブシーンである。おそらくは最大の見せ場として配置された場面であろうが、はっきり言ってガッカリな出来だった。曲はいい。問題は、3DCGの部分だ。映画館の大画面で見せるということへの配慮が足りておらず、人物の動かし方や背景の作り方が甘いので、カメラを動かしてもむしろスッカスカな画面が目立つだけで虚しい。むしろせっかく手書きの部分もかなりあるのだから、寄った方がいいのではないだろうかと思えるほどに、大画面に耐えられる画面設計ではなかったと思う。せっかく7thライブを意識した入りはカッコよかったのに、肝心のシーンがこれでは勿体ない。
もう一つ大きなところでは、最後の最後。Pが帰国するところまでをエンドロールで見せてしまうことだ。これは、僕はあまり良いとは思えない。せっかくPも彼女たちも未来へ向かうことはできたのだから、別にそこまで描く必要はなかった。物語的には帰ってこなくても良いのである。むしろここで戻ってくると、またいつもの765プロというところで落ち着いてしまってテーマ的にはもったいない気もするのだ。
細かいところでは春香の部屋のデザインがいただけない。彼女の性格的に、あんな地味な部屋にするだろうか。本棚には問題集しかないし、全体に色も暗めでちょっと違和感があった。それと、これは文句ではないのだが、一か所だけ妙にぬるぬると動くシーンがって気になった。あとハリウッド行きが決まった美希に対し、亜美真美がスターの代名詞としてハリソン・フォードの名前を出す。しかし現代の中1が果たしてこの名を出すか。最近はヒット作もないし、テレビでも彼の出演作はあまり放送されない。まぁこんなことはどうでもいいのだが、何となく作り手の年齢が垣間見れる感じだった。



ところで、僕が1番感動したのは、実はエンドクレジットである。つまり、キャストの方々の名前が出たところだ。なんでこの場面で泣けたかというと、それが先に書いた、僕がアイドルマスターを好きな理由であり、つまり僕は、アイマスの声優が好きなのである。それは、声や顔が好みだとかトークが面白いというだけの理由ではない。僕はアイマスガールズの皆さんを、ざっくり言うと尊敬しているのだ。
当時の状況がわからないので間違っていたら申し訳ないのだが、2005年のアーケード稼働時、誰が9年の長きに渡るゲームになると思っていただろうか。誰が2クールのアニメになると思っていただろうか。誰が8年もライブを続け、しかもさいたまスーパーアリーナというでかい規模でできるほどの人気になると思っていただろうか。そして、いったい誰が、アニメの劇場版が公開され、しかも全国拡大公開されるほどの売り上げを記録するなどと思っていただろうか。
時代の流れというのもあるだろうが、しかしこれらのことを考えるとホントにアイドルマスターというのは奇跡的な作品ではないかと思うし、アニメ本編のアイドルたちより、よっぽどアイマスガールズの皆さんの方がドラマチックなのではないかと思うほどだ。もしかしたら作り手もそれを意図して7thライブの再現をしたのではないか。つまり、このアイドルたちのお話は非現実的な夢物語ではないのだと、スタッフもそう、敬意を表しているのではないか。まぁ、これは考えすぎかもしれないが、少なくとも僕はそう感じたし、それもあってクレジットでキャストの方々の名前が出たときに一番感動したのである。



この作品が、映画として素晴らしいとは僕も思わない。そもそもファンムービーだし、一本の映画として見ても欠点はある。ただ、いろいろと惜しいところまでいっている作品ではあると思うし、それに何より、スタッフの挑戦や愛、歴史の重みを感じられたのが良かった。渋谷凛の登場もあったので、今後アニマスがどう展開していくのか、これもまた楽しみである。

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