リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た旧作の感想その17

サンライズ』(1927)
F.W.ムルナウによるこの伝説的作品を、僕は初め「楽しもう」というよりは「お勉強」的な気分で見ていた。しかしこれが、まぁ画面に引き込まれるわ引き込まれるわ。とにかく面白い。都会から避暑のため田舎へと訪れた美女に誑かされる農夫が、言われるまま家財を売り、ついには女と逃げるため妻を殺す計画を立てる。男は妻を舟での旅行に誘いそこで水に沈めようとするが・・・という物語である。
本作は乗り物の映画だ。画面はとにかく、乗り物で埋め尽くされている。まずは、汽車が映し出される。ぐいぐい進んでいく。次におおきな船が出てくる。馬車が出てくる。小舟が出てくる。路面電車が出てくる。都市を走る車が出てくる。遊園地の遊具が出てくる。色々な乗り物が、画面に入っては消えていく。しかもこれら動く物たちのある風景が、セットだというから驚きではないか。
驚きはそれだけではない。この映画は、長くはない上映時間の中にサスペンス、ホラー、ロマンス、スペクタクルなどの様々な要素を含んでいるのだ。驚きはそれだけでは終わらない。例えば、初め舟が映画に登場するとき、それは殺人が行われる予感のある、恐ろしいものとして演出されている。しかし、次に舟が登場するときは何と、ロマンチックに演出されているのだ。見た目だけは同じようなシーンなのに、まさかこれほど違うものに見えるとは。
乗り物が出入りする画面ではあるのだが、その流れを止める存在がある。それがジョージ・オブライエン演じる夫とその妻、ジャネット・ゲイナーの愛なのである。車や電車の行きかう街中、道路の上で殺人計画から絶望ののちに愛を取り戻し、キスをする彼らだけがこの流れを止めることができるのだ。ジョージ・オブライエンは都会の女であるマーガレット・リビングストンとも何度もキスを交わすが(ちなみにここでは月が光っている)、妻とのロマンチックな愛に比べれば何とも忙しいものだ。
どれだけ時代が変化し、社会が、人が変わっていこうとも愛というものだけは、変わらず存在し続ける。それはまさに、いつの時代も変わらず昇り行く太陽と同じように、人間にとって普遍的に必要な光なのであるというのがこの作品なのだと僕は思った。

サンライズ クリティカル・エディション [DVD]

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