リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を見た。

踊るポンポコ銀河守護者

MCU最新作(10作目)にして、久々のシリーズ1本目。原作は2008年に初登場した、かなり新しい作品だという(ちなみにMCU1作目である『アイアンマン』公開年と同じ)。主演はクリス・プラットゾーイ・サルダナデイヴ・バウティスタヴィン・ディーゼルブラッドリー・クーパーら。監督は『スリザー』『スーパー!』で知られるジェームズ・ガン


地球。9歳の少年ピーター・クイルは病気の母の死に直面し、ショックで病院の外に飛び出してしまうが、その時、謎の宇宙船に誘拐されてしまった。時は流れそれから26年後。トレジャーハンターとなった「スター・ロード」ことピーター(クリス・プラット)は、オーブと呼ばれる謎の球体を、命からがら奪取することに成功していた。しかし、この一件により賞金首となり、賞金稼ぎのアライグマ、ロケット(ブラッドリー・クーパー)と相棒の動く観葉植物グルート(ヴィン・デーゼル)、さらには。オーブを狙う好戦的な種族が遣わした女殺し屋のガモーラ(ゾーイ・サルダナ)らに、命を狙われることとなる。間一髪で逮捕され銀河の刑務所に搬送された彼らは、そこで互いの利益のため、復讐に燃える囚人ドラックス(デイヴ・バウティスタ)も仲間に引き入れ、一時的なチームを組むことになるが・・・

見捨てられた惑星から謎のお宝を手に入れ、そのお宝を巡って散々騒動を繰り広げた後、そのお宝を仕舞うラストまで随所に『レイダース 失われたアーク』のエッセンスが散りばれられてはいるものの、トレジャーハンターの主人公スター・ロードはジョーンズ博士ほど理想的な男ではないし、同じくハリソン・フォードが演じたハン・ソロのようなアウトローというにはどうもマヌケっぽい。しかしこの、少し気の抜けた空気こそが最高で、いくら銀河が危機に陥ろうともゴキゲンさを失わず暴れまわる姿は底抜けに楽しい。その楽しさと空気感をドカンと印象付ける、「Come and Get Your Love」をバックに踊りだすオープニングは、幸福という一言に尽きる。
その楽しさはアクションシーンにも通底する。もちろん、戦闘機でのファイトシーンは燃える。例えば中盤、小型の作業用ロボットに乗り込んでの、ゴチャゴチャとした惑星を特攻スタイルで進んでいくドッグファイトはカッコいいし、最大の見せ場である、広大な青空の中での空中戦も、でかい画面で見るとコクピット視点の映像、ライド感に驚くし、一進一退の展開は手に汗握る。しかし最大の特徴は、宇宙の危機なのに空は、あまりにも爽やかで晴れ晴れとしているところではないか。この陽性な雰囲気こそ、本作最大のポイントだろう。



ただ、底抜けに楽しいと言っても物語はジェームズ・ガンらしい、「愛する人を失った者たち」の再起をかけた戦いであり、映画冒頭から、ピーターの母の死という悲劇と、死の間際に残したプレゼント(=音楽)について語られている。その残した音楽は劇中何度もかかるわけだが、どうして彼は、その音楽プレーヤーを後生大事に抱え、孤独や危機的状況の中で聞くのだろうか。
本作において音楽は、単に「懐メロ」や目配せとして流れているのではない。歌詞に物語をなぞらえさせているのはもちろんだが、それだけでもない。ここでの音楽は、「何故人は音楽を聴くのか」という問への、回答にもなっているのだ。
その回答とは別に大したことではなく、至極単純である。例えば音楽によって、私たちは心の喪失を癒したりしないだろうか。恐怖や不安と対峙した時、音楽から勇気を貰わないだろうか。高揚した気持ちを持続させたくて音楽を聴きはしないだろうか。音楽は、自分の中にある穴を埋めてくれる。音楽は、心に灯った火の燃料となってくれる。音楽には、私たちのいかなる感情も包み込む力がある。ピーターの「最強ミックス」は、そんな音楽の持つ根本的な力を、劇中で駆けることによって思い出させてくれる。ゆえに90年代生まれの僕でも、本作の音楽使いに感情を持っていかれるのではないかと思った。



そんな音楽使いとそれによるメッセージは面白いが、物語に関しては不満もある。先ず不満ではなく根本として、本作は展開が速く、一つ一つの場面が性急である。そういう場合手際よく話を運ばないと何が何だか分からなくなるが、そこは大分整理されていると思う。例えば脱獄シーンの、説明と行動を被せて見せる場面も良い。子供から大人までという娯楽の中、『スーパー』で描いたような孤独と悲哀を最小限に留めたのも、ありだと思う。
が、それによって失われたものもある。一番の問題は、ジェームズ・ガン監督は本作で負け犬の再起を描こうとしているのだが、それを「演説」で観客に納得させようとしている部分である。ここは人物が立っているだけで画面も硬直しており(そのような場面は他でも見られた)、勿体なく感じる。ロケットの傷ついた背中を見せるとか、グルートがフランケンシュタインよろしく女の子にプレゼントする下りだとか、ロケットがドラックスを叱り飛ばす一言、もしくは飾ってある人形だとか、そういったことで十分なはずなのにである。
もう一つ惜しいなと思うのは、面白惑星、面白異星人の存在がないことだ。常に話が展開していくため画面が落ち着かず、異文化をじっくり見せてくれないというのも勿体ないと感じるが、そもそもの斬新さが足りていない。異星人のデザインはほぼ人型で変わっているのは肌の色程度だし、惑星をいくつか旅しても、「まるで信じられないけども、どこかには有りそう」というイマジネーションの驚きはなかった。ここは非常に残念である。せめて、コレクターの部屋くらいはもうちょっと気合入れて描写してほしかった。



ただし、大まかにデザインという点で見れば、この映画のデザインは最高だ。まずは、カラフルで熱帯魚のような飛行船のデザイン。おしらくクリス・フォスによるこの船は作品のテンションに合っており、面白いだけでなく不思議な形状にも意味があるとわかることで「信じられる」物になっている。そしてスター・ロード。この人のデザインがまぁ、素晴らしい。まずマスク。おそらくは、ブライアン・ミュラーが手掛けたのであろうマスクが、とにかくカッコいい。この機能的なマスクと足に付けたジェットで宇宙空間をいかにも自由に飛び出す姿はとても魅力的だ。不思議な形状の銃もいい。また武器ということでは、ヨンドゥの口笛弓には驚かされた。というかヨンドゥはもう、全部最高だ。
あとは服装で、中でも特に、色が僕は気になった。ガーディアンズが最終決戦へ向かうとき、つまりヒーローになった時彼らは赤色の服を着ており(スター・ロードは初めからだけど)、どうも『スーパー!』を思い出す。ちなみに彼らの囚人服は黄色であり、それはボルティーと同じで、何か不完全という事なのかもしれないし、単に偶然なのかもしれないが、そんな繋がりが僕には少し面白く感じられた。



刑務所で仕方なく徒党を組む不完全なガーディアンズは、一応は銀河の危機を救うものの、結局最後で「良いことも悪いことも、俺たちはやりたいことをやるぜ!」と宣言してみせる。「最強ミックス」から成長するという事もない。凶暴な奴はやっぱり凶暴で、バカはバカだ。ヒーローとして、彼らはあくまでも不完全なのだ。マーベル作品の中でも、タイトルがヒーロー単体の名前ではなくチーム名となっているのも、そのためであろう。『アベンジャーズ』がプロ集団なら、こちらはデコボコの、洗練されないアマチュア集団であり、一人一人はあまりに欠落している。しかしそれでも、チームなら、心の支えがあるなら、銀河だって救えるのさ。見終えた後、青空を見上げ夢を託したくなるような、そんな幸福感を、僕は久々に味わった。大変、面白かったです。

GUARDIANS OF THE GALAXY

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