リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その10

ジャージー・ボーイズ
結婚に至るまでの過程や、長い年月をいとも簡単にすっ飛ばしてみせる大胆な編集。必要以上のことはくどくど語らず、時に登場人物が観客に語りかけることで情報を処理してしまう手際を目の当たりにして僕が思ったのは、どこか不気味だという事であった。本作はジャージーの少年たちがグループを結成するところから成りあがり、栄光と代償、そして離散までのドラマを、「このくらいで十分だ」と言うかのような手法によって描く。確かに、劇中で起こるドラマをいちいち描写していては、時間がいくらあっても足リなくなるだろう。すべての出来事は起こるべくして起こり、フォー・シーズンズとしての活動はとっくに過去のものになった。しかしジャージー・ボーイズの絆と歌が、確かにそこにはあったのだと振り返るラストのミュージカルシーンは幸福だがその背後は虚無的であるという、なんとも説明できない感動があって素晴らしいと思う。しかし適切かつ、基本的には淡々とした見せ方や語り口に僕は、どこか違和感を抱いてしまったのだ。
この語り口は「いい意味で肩の力の抜けた」と捉えることもできるかもしれないし、おそらくはこれが最善の方法なんだとも思える。しかしそれと同時に、「こうしておけばこれで映画になるんだ」と言っているようにも思え、その何とも言えない温度の無さが、どうも僕には不気味に感じられたのだと思う。例えば普通、娘の死を乗り越え歌を取り戻す場面はもっと盛り上げるだろう。しかし本作では、「節度を持った」という以上に抑えて演出しているように思う。また不気味というと、フランキー・ヴァリが妻とケンカし階段の上から結婚指輪を投げられた後、ふとヴァリが廊下から階段に目をやるとそこに娘がいるというシーン。ここはなぜだかわからないが、不気味というか、どこか恐ろしくすらあった。
そんなわけで、結局僕はこの映画がいかなる作品なのかという事をまるっきり掴めていない気がする。感動的であるとか、素晴らしい手腕だとか、また撮影が素晴らしいとか言うことはできるけど、作品から受ける不気味という印象の正体が、僕にはよくわからないのである。
ところで、僕は全くフォー・シーズンズについてもこの映画の元になったミュージカルについても知らなかったのだが、ジョー・ペシの存在があったとは驚かされた。しかも、変な言い方になるけどジョー・ペシがスゲェジョー・ペシで、その上「Funny How」とか言いだすからもう、笑いをこらえられなかったですね。

ジャージー・ボーイズ オリジナル・サウンドトラック

ジャージー・ボーイズ オリジナル・サウンドトラック



『友よ、さらばと言おう』ちょっとした目線や動作、癖が人物を語り、アクションの中でドラマはすすんでいく。90分間登場人物がその足で、車で、高速列車で走り続けるこの映画には、特別新しいと思わせる要素はないし、斬新な驚きがあるというわけでもない。しかしフレッド・カヴァイエ監督は確かな手腕によって、本作を手堅く面白い作品に仕立て上げていた。僕は必ずしも映画はコンパクトにまとまっているべきとは思わないが、本作のような、タイトでカッチリ楽しませる映画を見ると、無駄に長い映画に対し悪態の一つでもつきたくなるような気持ちにならなくはない。
特別印象に残るシーンが2つある。まず一つは、主人公二人が銃撃戦の果て、突き当りにあるトイレの個室に立てこもる場面。トイレのドア越しに撃ち合うも、敵は数も多く、しかもショットガンを所持している奴までいる。そんな危機的状況から機転を利かせ次の場面に進むまでの流れ、テンポ、見せ方、カメラの置く場所。どれもがスマートだ。
二つ目はその直後。ビニールカーテンの垂れ下がった工場の追跡シーン。予期せず2手にわかれた主人公たちと、彼らを追う若いギャング。三者三様に互いの位置がつかめないまま銃を構えているうち、一人が若いギャングと遭遇。銃口を突きつけあったまま膠着していると、その姿をカーテン越しに主人公は見つける。しかし、二人の姿はシルエットになっており、どちらが相棒でどちらが敵なのか判別できない。こういったシーンでの少しの工夫が、映画を何倍にも面白くさせる。
サスペンスやスリリングなアクションの影にある人物描写も忘れられない。描写は物語の結末に向け最小に抑えられているが、行動の中で彼らがいかなる人物化は見えてくる。そしてまさか、序盤と終盤に登場するある行動が、まさか伏線だったとは気付かなんだ。そういうところにも驚かされる作品で、僕はもう、大満足でした。