リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その12

フライト・ゲーム
『NON-STOP』というタイトルの通り離陸したら最後、地に足のつかない不安定な状況にリーアム・ニーソンだけでなく観客も揺さぶられ、ダイナミックな着陸まで制御不能なサスペンスにまんまと乗せられてしまう。このゲームに乗せられてしまうのは、ノンストップな物語の他にも例えば主人公が酒びたりであるということや家庭状況等の情報の出し方、搭乗人物を印象付ける手際の良さ。そしてリボンの使い方や、犯人によって設定された「アラーム」が鳴るタイミングの素晴らしさなどといった理由が挙げられると思う。また機体の外まで飛び出してしまうような中盤の長回しや、乗客が次々に窓から戦闘機を見つける終盤の場面のカメラワークも目を引くものがある。さらに、偶然乗り合わせた乗客たち、乗務員たちがプロ・アマ問わずそれぞれ自分の仕事を全うするという展開も、燃えるではないか。
整合性に関しては若干、いや大分疑問が残るのだけれど、映画にとって最も大切なのはそういうことではないのだ。快作『エスター』の監督でもあるジャウム・コレット=セラは、本作でそれを証明して見せた。特別素晴らしい傑作とは思わないまでも、見ている間は十分に面白い、文句なしの娯楽作品であった。落とし落とされ奪われて、そして渡される拳銃の見事な使い方!



猿の惑星 新世紀』
馬にまたがりサブマシンガンをぶっ放す猿軍団が見応えのある画として成立してるだけでも成功と言っていい作品なのだろうし、映画の最初と最後を猿の顔面クローズアップで見せていることからも、この映画は人間ではなく猿を語るのだという意気込みとその自信の程がうかがえる。しかもそんな猿たちによって描かれるのは、現在人間の世界で見られるような政治・衝突・憎悪であり、同時に古典的な王家の歴史であるかのごとくドラマチックな物語である。
しかし、物語に含まれた様々な要素に対し真正面から取り組みすぎたせいかどうも堅苦しくなり過ぎたきらいはあり、戦車奪取からの360度回転も、前線まで薬を取りに行く際のビルでの長回しも、塔の上での攻防も見せ場として派手なのだけれど、技術の割に全体としては妙に地味な印象を僕は受けた。前作には、収監から脱獄、そして猿たちの横並びと言った実に男らしいチーム感があったし、その猿たちが現代社会の人間を踏み倒すという面白味があった。だが本作にはそういった外連味がなく、そこが少しもったいなかったように感じる。基本的に森と人間たちの居住区の2場面しかないのも、地味な印象を受けた大きな要因であろう。
いっそここではドラマチックをはぎ取って殺意を持った連中をもっと描くとか、バイオレンスを増すだとかキャラクター同士をごちゃごちゃ絡ませてみるとかしていたら、もしかしたら個人的に好きな作品になっていたかもしれない。いや、やっぱりそれはそれでだめかな。この作品は確かに続編として素晴らしい役割を果たしたのかもしれず、それが単に僕としてはドンピシャの好みではなかったというだけのことなのかもしれない。
ただし、全く文句なしに素晴らしいと言えることも一つあって、これだけは異論を認めないのだけれど現代最高の役者の一人であるアンディ・サーキスが今回猿役でクレジットのトップを飾る。『二つの塔』から12年。なんと素晴らしい瞬間だったか。あれを見れただけでも価値があるというものだ。もう一度書くが、アンディ・サーキスは現代最高の俳優である。