リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

最近見た新作の感想その17

『野火』
光と音、サスペンス、人体破壊、悪夢。いかにも低予算な安っぽい画面を映画的な効果が塗りつぶす。その光景にめまいを起こしつつも、さらに歩き続けてゆく。そのような歩みの中浮かび上がってきたのは、人間性の崩壊する様子であった。わけても戦場のしきたりによってある一線を越えた若き兵士が見せる、あの口たるや。あの口の中に、人間性の彼岸を見た。思えば本作は咳に始まり食べるということや吸うということ、叫ぶということ等口にまつわる動作が多く、最後も食事という行為で幕を閉じていた。しかしここにおいて食事とはもはや、彼岸へと旅立ったものの呪いでしかない。食事とは人間の最も基本的な欲求であり行動であり喜びであるにも関わらず、それすら破壊させてしまう程の地獄が、ここにはあったのだ。この地獄とは決して、特定の相手=敵国によってもたらされたものでも、自然の状況がもたらしたものでもない。冒頭を思い出してみると、そこにはすでに人を人と思わぬ状況に取り囲まれ、人間とは無関係に存在する自然の中を理不尽に歩きまわされる田村の姿があったではないか。「何故こんなことになってしまったのか」。臓物と脳漿のまき散らされた灼熱の地獄を巡る本作において、見ている側の頭に一貫して浮かび続けるこの問いの答えは初めから明白であったのだ。それは敵国も自然も関係がなく、ただただ、戦争とは一体何なのか、ということである。

野火(のび) (新潮文庫)

野火(のび) (新潮文庫)



リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード
2013年の『アニメミライ』参加作品として制作された短編『リトルウィッチアカデミア』の続編となる中編アニメーション作品。前作の一体何が素晴らしかったといえばそれはアニメーションとしての快感が抜群だったことにある。例えばアクションシーンの素晴らしい躍動感と興奮はTRIGGERであれば『キルラキル』、その前身からでいうと『Panty & Stocking with Garterbelt』を思い出させるような動きだったし、また決して暗くはならない楽天的かつポップな物語と描写のおかげで、アクションシーン以外の場面でも画面世界は生き生きとしており、またキャラクターは魅力的に動いていた。本作はその良さを引き継ぎつつ、キャラクターを増やし世界を広げ見せ場を多くすることで、よりゴージャスな作品になっていたと思う。それ故に、何も知らぬまま前作を見たときの新鮮な驚きは感じられなかったものの、作品としての豊かさや楽しさは増していると感じられた。ちなみに本作をはじめとするこの座組の作品では設定や状況の説明をギャグで行うことが多いように思うのだが、その際のテンポ、見せ方が最高である。例えば本作の「新キャラクター」や「パレードの概要」を説明する場面である。というわけで文句なしに楽しめる娯楽作品であったし、もしも今後も続編が作られるのであれば当然応援したいのだが、もしできるなら吉成曜監督&TRIGGERには、オリジナルで冒険活劇長編を撮ってほしい。このテンションで長編をうまく転がせるかどうかは不安もあるが、傑作になる可能性は、決して低くないはずだ。



ナイトクローラー
ルイス・ブルームの行いはクズなんて生ぬるい表現を超えた正真正銘の非道である。しかし物語上においてその点はなんら裁かれることなく進行するため、それならと割り切って、意識だけはやたら高いけど何においても軽薄なクズの、圧倒的成長をげらげらと笑いながら楽しませてくれればいいものを、映画自体が彼を断罪してしまっているために、今一つ乗り切れなかったというのが正直な感想である。例えばルイスと女ディレクターが会話するシーンに投げかけられる「物言わぬ視線」はその極致だし、度々強調される時計は根本的な罪を背負っていることの証なのであろう。ルイスというキャラクターは情報が氾濫する現代社会の要請によって生み出された存在といえるため、その存在に大笑いするよりかは皮肉めいた作品にしたのだとは思うし、これはこれで面白い作品にはなっているとも思うのだけれど、個人的な好みとまではならなかった。事故を起こした仕事仲間にカメラを向けるシーンについては、ルイスのどうしようもない小物感あふれる人間性がにじみ出ていていいとは思ったが。ちなみに画面に関しては「ナイトホークス」を思わせるような雰囲気を漂わせているのが良かったと思うし、夜の街を駆け巡る話ではあるものの、例えばダイナーを一定の距離感から捉えたショットやルイスの家など、室内の描写の方に気持ち良さを感じた。

Nightcrawler

Nightcrawler