リンゴ爆弾でさようなら

91年生まれ。新作を中心に映画の感想を書きます。旧作の感想はよほど面白かったか、気分が向いたら書きます。

今年の映画、今年のうちに。2022年新作映画ランキング

年の瀬でございます。というわけで今年もやります、2022年新作映画ベストです。新作の基準は今年新作として公開された作品、つまり特集上映やリマスターなどリバイバル、そしてMVや短編も除外します。というわけで、敬愛する黒沢清監督の『Actually...』は対象外。『Sevneth Code』みたいに劇場公開されなかったしね。尚、場環境等や心身の不調により今年は就職以降最も映画を見られなかった年となってしまったので、ベスト5+次点です。

 

 

 

次点 バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ

確かに新鮮味はないし、ゲームのキャラクターを多数登場させた結果全員輪郭がぼやけ薄味で華もなくなっているなど、いろいろと至らない点がある作品だとは思う。しかしはっきりと美点もある作品で、例えば奥行きと闇を意識させる空間設計が随所で効果を発揮している。顕著なのはリッカー登場シーン。怪物の姿こそ見えないものの、画面奥の電灯が一つづつ揺れこちらに近づいてくる様子など、視覚的楽しさのある場面じゃないか。あるいは、発火炎やライターの点滅、その音と光でゾンビとの攻防を見せたりと、所々工夫もある。全体に安定したショットのある落ち着いた、古めかしい作品だ。最後に屋敷がきちんと崩れるのも好み。6位でも7位でもなく、次点としてここに置いておきたい。

 

 

5位 恋は光

西野七瀬のぎこちない表情で終わる。その表情に賭けたというのが成功している。恋に戸惑う登場人物たちが、流暢だけど不自然なセリフによって問答し、最終的にぎこちないけれど自然な戸惑いの表情に収まるのが好きだ。小林啓一監督は前作に続き、不自然なセリフをきちんと昇華させるのがうまいと思う(「未来の話をしましょう」)。そのほか、馬場ふみかが玄関に足を踏み入れる急なカットと、そこから2か所に別れそれぞれで恋についての議論が進むあたりの編集も素晴らしい。ところで、結末に用意された神尾楓珠西野七瀬の触れ合いは、序盤に川辺で彼らの釣竿が交差しているショットの変奏として捉えられないだろうか。実際その釣竿の交差を見たとき、これはこの2人の映画になるに違いないと予想されるのだ。

 

 

4位 左様なら 今晩は

映像の変奏という点では本作が最も記憶に残っている。ベランダで吸うタバコの煙は線香に。一人で飲んで雑に置かれたビール缶は分け合うためコップに、そして花瓶に。またベランダの裸足のアップは外を出歩くための靴に。という具合で物語=関係性の変化と合わせた小道具の扱いがうまい。だから海沿いで揺れる久保史緒里の白い服は、窓際で揺れるカーテンと別れを想起させ彼女の結末を暗示するだろう。全身を収めるショット、それぞれの視線の高さ、そのズレがなくなる辺りにも緊張感がある。基本的に狭い室内で展開する物語だからこそ、どこにカメラを置いてカットを割る、割らないの選択がとても効いていたように思う。ベランダ映画。

 

 

3位 ウエスト・サイド・ストーリー

詳しくはこちら→https://hige33.hatenablog.com/entry/2022/02/19/150715に書いた通り。個人的には61年版よりも好きなくらいで、特に「cool」の拳銃を奪い合うどこかエロチックでもあるダンスは素晴らしい。ただ、どうしてもその拳銃を酒場で手に入れる場面や、またはベルナルドの死後シャーク団がたむろするボクシングジムのかくれんぼなど、暴力の匂いが強く立ち込める黒い画面の方にこそ惹かれる。

 

 

2位 ケイコ 目を澄ませて

ケイコの心情ではなく日常にある音や動作を淡々と積み重ねること、またコート姿で街や夜を歩く姿から妄想したのはハードボイルド。破られたページは彼女のみ知る。そんなケイコの、画面中央に置かれた孤高の横顔が素晴らしく、特に感動したのは2戦目の観戦に来ていた母を駅まで送る場面で、風がケイコの髪を揺らす瞬間。ほんの一瞬のことではあるけれども、その美しさが忘れられない。この他にもたくさんの忘れ難い瞬間に満ちており、例えば土手も、電車の交差も、階段のある路地も、ジムの前で手紙を出せなかったケイコに横顔に当たる光も、またストーブの上にある赤いやかんも、鮮明に記憶に残っている。さてこの作品には双方向であれ一方的であれ、共感であれ衝突であれ反復であれ模倣であれ、様々な形のコミュニケーションがある。風景と人。この土地で生きること、生活のすべてが豊かに息づいているような感覚がこの作品にはある。傑作。2位だけど1位みたいなもん。

 

 

1位 フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

詳しくはこちら→https://hige33.hatenablog.com/entry/2022/06/21/014433に書いた通り。レア・セドゥ演じる看守シモーヌが、自らをモデルとしたフレスコ画の前を闊歩するシーンの、あまりにも不意に襲ってきた感動。理解というよりはほとんど反射的で、自分でもそのとき一体何に心を動かされているのかわからないままただただ目を奪われてしまったという体験ができた。結局、これ以降そんな瞬間を超える作品には出会えなかった(ケイコはほぼ同率だけど)ので、ウェス・アンダーソンのこの作品を、2022年の1位に選ぶ。

 

 

 

というわけで、以上が2022年のベスト5+次点です。そのほかだと『スティルウォーター』ブラックボックス:音声分析捜査』の妄執。『炎のデス・ポリス』『ブラック・フォン』のキャラクターと籠城(監禁)の丁度良さ。『グリーン・ナイト』グランギニョル、あるいは階段の怪奇が印象に残っている。スポーツの閉塞感、息苦しさをこそすさまじいアニメーションと時間感覚によって描きだした『THE FIRST SLUM DUNK』にも興奮したし、アニメではアンネ・フランクと旅する日記』も良かった。登場人物と同様に夢なんだか起きているんだかの不思議な体験をしたMEMORIA メモリア』だって忘れ難い。

けれども今回ベストの基準はもう一回見たくなったかどうか、あるいは、ハッとする瞬間があったかどうかという点に重きを置いて考えたので、これらの作品を入れてベストテン、とはしませんでした。見逃した作品が多すぎて「テン」にはできなかったという思いもあります。ちなみにワーストは『シン・ウルトラマン』と『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』です。

 

冒頭に書いたように今年は心身の不調、特に心の方がだいぶおかしな状況に陥ってしまったこともあって多くの注目作を見逃しています。そこで今年もまた、見逃し映画テン・リストなんてものを選出してみようかと思います。去年選んだ作品の中には未だ配信もレンタルもない作品があり、やはり、劇場でかかっているチャンスを逃すべきではないと痛感させられますね。心の余裕の問題もありますが、そもそも田舎暮らしと映画の相性は悪い。

・ ザ・ミソジニー高橋洋

・ 麻希のいる世界(塩田明彦

・ 春原さんのうた(杉田協士)

・ スペンサー ダイアナの決意(パブロ・ラライン

・ NOPE(ジョーダン・ピール

・ さかなのこ(沖田修一

・ みんなのヴァカンス(ギヨーム・ブラック)

・ 猫たちのアパートメント(チョン・ジェウン

・ 彼女のいない部屋(マチュー・アマルリック

・ VORTEX(ギャスパー・ノエ

 

さて、以上で2022年新作映画については終了。今年は本当に最低を更新し続ける一年で、何もかも一刻も早く忘れてしまいたい年でした。ブログもほとんど放置してしまったようなものだし、来年だって何も良い見通しはないのだけれど、バーホーベンもクローネンバーグもシャマランもスピルバーグもあるし、またブログだってこうやって久々に書いてみるとやはり楽しいので、懲りずに下手の横好き人生を続けていきたいと思います。とりあえずは、年明けに下半期旧作映画ベストでお会いしましょう。それでは、良いお年を。